第4章 新フォームはヒーローの嗜み

トマーレ

 8月1日。


 勇助ゆうすけ乃々ののはこの半月間、2人は協力して文字化もじばけと戦うように努めた。

 いつも文字化もじばけけは1体で出現する。2人掛かりなら倒すのは比較的楽であった。


 肝心の佐々木仁ささきじんはというと……2人は彼を捕まえられずにいた。


 じんは、文字化もじばけけが現れると乃々のの達より早く現場に駆けつけ、添削てんさくをして石を回収する。そして2人が到着すると、彼は戦わずに逃げてしまうのだ。


 また、さきに乃々のの達が文字化もじばけけと戦った時には、じんは現れない。


 文字化もじばけが出たら乃々のの達は現場に駆けつける。じんがいなければいつもどおり添削てんさくする。じんがさきに文字化もじばけを倒していれば、じんを捕まえる。


 それがこの数日間の、乃々のの勇助ゆうすけの行動パターンだった。


 だが、今日は違った。


文字化もじばけが出現しました。今までとは異なり2体同時、しかも別々の地点です。至急、添削てんさくをお願いします」


 草垣天音くさがきあまね乃々のの勇助ゆうすけに指令を出す。


 今まで乃々のの勇助ゆうすけは2人で一緒に戦ってきた。しかし敵が2体同時出現となれば、そういうわけにはいかない。


 2人は1度別れて添削てんさくを行うことにし、片方が倒し終わったらもう片方の援助に向かう、ということにした。


 別々の地点で2人が文字化もじばけに対峙したのは、ほぼ同時刻だった。


 そして、早く決着が付きそうなのは、勇助ゆうすけの方だった。


 ――テンサク、フィニッシュ!!――


「必殺、キーボンバー!!」


 キーメイスの打撃を、文字化もじばけに喰らわせる勇助ゆうすけ

 文字化もじばけは爆死し、文字石もじいしに戻った。


「よし1丁上がりっと。早く乃々ののの所へ――っ!?」


 石を拾おうと、勇助ゆうすけが膝関節を曲げようとした時だった。


 身体が、勇助ゆうすけの身体が動かなくなったのだ。身体全身に力を込めて、なんとか動こうとする勇助ゆうすけ。しかし、彼の身体は指1本動こうとしなかった。


「無様だな。町を守るヒーローさんよ」


「っ、佐々木仁ささきじん!!」


 佐々木仁ささきじんがモジシャンに変身した状態で、勇助ゆうすけの前に現れる。


 だがその姿はいつもの黒い装甲ではなく灰色、グレーのモジシャン。

 また、持っている武器もいつもと異なる。仁はイヅチとは別の武器……トンファーと呼ばれる棍棒を装備していた。


 じんが、敵が現れたというのに、やはり勇助ゆうすけの身体は動かない。


「てめえ、俺に何をしやがった!?」


 自分の身体が動かなくなった原因は佐々木仁ささきじんにある、そう確信する勇助ゆうすけ


 その勘は当たっていた。


「お前の恋人から貰った石、俺との相性がピッタリだったよ。しかもカタカナのおまけつきでな。……そうだな、あのクソ科学者風に言うなら、こいつの名は『トトンファー』だ」


「トトンファー……そうか『止』の石か!!」


 片仮名の『ト』の元になった漢字は『止』。


 その文字石もじいしが持つ力は、文字通り、静止。


 つまり石の力で勇助ゆうすけは動けなくなったのだ。


 止まった勇助ゆうすけを横切り、落ちている文字石もじいしを横取りするじん


「『止』で物質を止められるのはたったの5分だ。しかも、1度停止させた物質をもう1度止めるには、1時間待たなければならないという欠点もある。だが、5分間その物質は絶対に動けない」


 拾った石を懐にしまい、プロトドライバーの青いボタンをじんは押した。


 ――DESTROY ERASER――


「消えな、半人前」


 トトンファーにエネルギーを溜め、勇助ゆうすけに打撃を喰らわす仁。


 勇助ゆうすけは吹っ飛ばされ壁に激突、その衝撃で勇助ゆうすけの変身は解かれた。


 そして勇助ゆうすけのペンダントの紐が、『幾』の文字石もじいしの紐が外れて、地面にカランコロンと落ちる。


 実はトトンファーが勇助ゆうすけに当たる瞬間、時間オーバーで『止』の呪いは解けていた。だから勇助ゆうすけは咄嗟にキーメイスで防御することができ、致命傷にはならなかった。


 だが、やはりエネルギーの溜まった攻撃の勢いは凄まじく、勇助ゆうすけは身体が痺れて思うように動けない。


「ついでだ。こいつも貰っていくぞ」


 そう言って、勇助ゆうすけのペンダントを拾うじん


「ま、待ちやがれ……」


 勇助ゆうすけの言葉などじんが聞くはずもなく、じんはペンダントを持って、行ってしまった。


 勇助ゆうすけは焦った。彼は確信していた、じんの次の狙いは乃々ののだ、と。

 早くこのことを、じんが強力な文字石もじいしを持って襲ってくることを、伝えなければ。そう焦る勇助ゆうすけ


 なんとか身体に力を入れて、勇助は立ち上がる。しかし、その足取りはフラフラだった。


 その時だった。


 角からバイクがやってきた。黒いオフロードバイク。


 そのバイクが勇助ゆうすけの前に停車すると、ライダーは二輪車から下り、ヘルメットを外してミラーに引っ掛ける。


 バイクに乗ってやって来たのは……。


「おやおや、随分派手にやられたね、江角えすみくん」


 十文字平じゅうもんじたいら、WCの開発部最高責任者、文字もじるドライバーを開発した男、その人だった。


「おっさん、なんでここに……。いや、来てくれて助かった。乃々ののに伝えてくれ、じんが!!」


「うむ、私もカメラを通じて事態は把握している。だが私が佐倉さくらくんに状況を伝えたところで、彼女はじんくんには勝てない。『止』で動きを封じられて倒されるのがオチだ。勝てる見込みがあるとすれば、江角えすみくん、君だ。さっき停止させられて、まだ1時間経っていない、君だけだ」


「だが、俺の文字石もじいしは」


 そう。モジシャンに変身するには文字もじるドライバーと、所有者に適応した文字石もじいしが必要だ。


 さっきの戦闘でドライバーは壊れてはいないが、肝心の文字石もじいしじんに奪われてしまっている。


 いくら今の勇助ゆうすけが『止』の呪いを受けないといっても、変身してない状態でモジシャンになっているじんに勝てるわけがない。裸の人間が戦車に挑むようなものだ。


江角えすみくん。まさかこの私が何の策も無しに、こんなところまでわざわざ来たと思うかね?」


 不適に笑う十文字じゅうもんじ。その顔は何か作戦があると語っていた。


 勇助ゆうすけ十文字じゅうもんじはブレスレットを、文字石もじいしがはめ込まれた腕輪を手渡す。


「その石は、佐倉さくらくんが最初に倒した文字化もじばけから回収されたものだ。そしてシミュレーションの結果、江角えすみくんとの適応率は90パーセントという数値が出た」


 100パーセントじゃないのかよ、とツッコむ勇助ゆうすけ

 腕を組みながら十文字じゅうもんじは答えた。


「変身自体は100パーセント確実に成功するはずだ。だが問題は、その文字石もじいしは『幾』と違って、かなり特殊でね。最悪の場合、普通の人間に戻れなくなる可能性がある。その可能性を考慮して、90パーセントというわけさ」


 普通の人間に戻れなくなる、という言葉の意味がイマイチ分からなかった勇助ゆうすけ


 だが要するに、10パーセントの確率で危険ということだ。1割の確率というのはギャンブル等で考えればそこまで高くない数値だが、命に関わるとなるとその数値は限りなく重くなる。


 今、勇助ゆうすけは試されているのだ。10パーセントを背負って戦う覚悟があるかどうかを。


 だがそんな問い、勇助ゆうすけにとっては愚問だった。

 乃々ののが、愛する女性に危機が迫っている。それを見過ごすなんてヒーローとして、いや男としてできるわけがない。


「悪いおっさん! バイク借りるぞ!!」


 勇助ゆうすけはブレスレットを持って、ヘルメットを装着。バイクに飛び乗り颯爽と走り去った。


「……せっかちなやつだ。まだどんな文字石もじいしか説明していないのに」


 やれやれとため息をつきながら十文字じゅうもんじは徒歩でその場を立ち去った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 登場人物情報が更新されました


佐倉乃々さくらのの

 19歳。女性

 ミスコンで銅賞を貰えるほどの容姿を持つ。

 彼氏持ち。

 赤いモジシャンに変身する。

 文字石もじいしは『乃』


 現在、別のエリアで、文字化もじばけと戦闘中。


 好きなライダーは、仮面ライダー電王(超クライマックスフォーム)



江角勇助えすみゆうすけ

 19歳。男性

 乃々ののの彼氏。

 青いモジシャンに変身する。

 

 じんに『幾』の石を奪われるが、十文字じゅうもんじから新たな石を受け取る。


 好きなライダーは、仮面ライダーディケイド(通常形態)。



漢一了かんかずあき

 40代。男性

 ワードカンパニー社長。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダー2号。



草垣天音くさがきあまね

 18歳。女性

 ワードカンパニーの秘書。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーレーザー(バイクゲーマーLv.2)



十文字平じゅうもんじたいら

 40代。男性

 文字もじるドライバーの開発者。


 勇助ゆうすけに新しい文字石もじいしを渡した。

 

 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーデューク(レモンエナジーアームズ)


 

佐々木仁ささきじん

 29歳。男性。

 黒もしくは灰色のモジシャンに変身する。

 文字石もじいしは『伊』と『止』


 勇助ゆうすけの『幾』を奪った。次のターゲットは乃々のの



佐々木奈央ささきなお

 享年20歳。女性

 佐々木仁ささきじんの妹。


 プロト文字もじるドライバーの欠陥により、死亡 

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