武器の名前は分かりやすい方がいい

佐々木ささきじんくんへの今後の方針は決まったな。では次の議題だ。佐倉さくら乃々ののくん、君についてだ」


「私……ですか?」


「この数日間。もう1つ文字るもじるドライバーどらいばーを開発し、研究員達にいし無しで変身させる実験を行ったが、全員モジシャンもじしゃんにはなれなかった。私は結論付けた、やはり文字石もじいしを持たずに変身することは不可能だ、とね」


 だがしかし、以前も言ったように乃々ののいしを持っていない。


 なんならここで男達に退出してもらって、裸になり、女性の天音あまねさんに身体検査してもらってもいい。乃々ののはそう言い放った。


「そこまでしなくても、君が嘘をついていないことは分かっているさ。そこで私はある仮説を立てた。佐倉さくら乃々のの文字石もじいしを体内に宿しているのではないのか、とね」


 十文字じゅうもんじの舐めるような視線に、乃々ののは鳥肌が立ち、とっさに勇助ゆうすけの後ろに隠れる。


 持っているのでなく、宿している。


 つまり文字石もじいしは身体の外側ではなく、内側に存在している。


 十文字じゅうもんじはそう考えたのだ。


「私の仮説を証明するためにも、佐倉さくら乃々ののくん、私の研究室に来てくれ。君の身体の中を調べたい」


「調べるって、何をするつもりだ?」


 十文字じゅうもんじをすっかり警戒してしまった乃々ののの代わりに、勇助ゆうすけが質問をする。


「専用の機械でスキャンして、体内に文字石もじいしがあるか調べるだけさ。もちろん服の上からね。……心配なら君も来ると良い、江角えすみ勇助ゆうすけくん。その傷もうちの医療班に治療させよう」






 数時間後。


 勇助ゆうすけの目が光る中で、十文字じゅうもんじによる検査が行われた。


 結果は陽性、つまり乃々ののの身体には十文字じゅうもんじが立てた仮説のとおり、文字石もじいしが宿っていた。


 そうと分かると、十文字じゅうもんじによる、石を取り出すための緊急手術が行われた。


 やはりメスで切られるのは怖かった乃々ののは最初渋った。


 それに女の子である彼女は、身体に傷が残るのを恐れた。


 しかしこのまま文字石もじいしを体内に宿しておくのは危険。


 勇助ゆうすけの説得と、十文字じゅうもんじの『絶対に傷は残さない』という自信満々な態度により、乃々ののは手術を受けることを了承した。


 そして今手術が終わった。


 手術が終わると同時に麻酔が切れて、乃々ののは目覚める。


 タイミングが良すぎるのではないかと勇助ゆうすけ乃々ののは思ったが、全て十文字じゅうもんじの計算どおりだったらしい。


十文字じゅうもんじさん、私の身体どうなったんですか……?」


「言っただろう、私を信用したまえ、と。安心しなさい、傷は残していないよ。それとほら、これが君の中に入っていた文字石もじいしだ」


 十文字じゅうもんじがベッドに横になっている乃々ののに、ペンダントを手渡す。


「サービスだ。江角えすみくんと同じペンダント型にしてあげたよ」


「へえ、なかなか粋なことをするじゃないか、十文字じゅうもんじのおっさん」


「ありがとう。でもおっさんはやめてくれ」


 乃々ののはペンダントを見つめる。


 勇助ゆうすけとお揃い、その言葉に彼女の顔はついニヤけてしまう。


「でもいいのか、すぐにペンダントにしちまって」


 どういうこと? と聞き返す乃々のの


「いや、どんな文字を宿しているか分からないのに、加工しちまっても良いのかな、って思ってさ。俺の時はいしの検査をいろいろやってから、ペンダントにしてもらったからさ」


「ああ、そのことなら心配ないよ。佐倉さくらくんのいしの文字はすでに分かっているからね」


 自信満々に堪える十文字じゅうもんじ


 研究者としての魂に火がついたのか、時折ジェスチャーを交えながら長々と説明しだす。


佐倉さくらくんのいしの正体が分かった要素は、さきほどの佐々木ささきじんくんとの戦闘で彼女がカタカナかたかなを使ったことだ。通常、文字石もじいしがどんな文字を宿しているか解明するのに時間が掛かる。文字の種類は無数にあるからね。だが、カタカナかたかなを出現させたということは、そのいしは片仮名のもとになった43の漢字に絞られる。また、カタカナかたかなの形状はいしの文字の片仮名によって決まる。たとえば江角えすみくんのキーメイスきーめいすは『』の『キ』、ほらよく見ると『キ』の形に見えるだろう。それと佐々木ささきじんくんが使ったイヅチいづちは『』の『イ』、あの大槌も『イ』の形そっくりだ。そして佐倉さくらくん、君が使った刀の形は明らかに『ノ』。つまり君のいしが宿す文字は『』ということになる」


 やっと十文字じゅうもんじの説明が終わる。


 長々と喋っていたのは十文字じゅうもんじの方なのに、なんだか乃々のの勇助ゆうすけの方が疲れているようだった。


「えっと、つまり私の文字石もじいしは『』なんですね」


 長い長い十文字じゅうもんじの話を、乃々ののは短く分かりやすく纏めた。


「『』って、どんな力があるんだ?」


「ふむ。『』という漢字が持つ意味は、なんじ。つまり、石が宿す力は……」


「「つまり?」」


 乃々のの勇助ゆうすけの疑問がハモる。


「特にないね」


 十文字じゅうもんじは肩をすくめながら淡々と言い放った。


 その回答に、乃々ののはがっかりする。


「まあ、良かったじゃないか。もしそのいしが『炎』や『燃』だったら、佐倉さくらくんはまる焦げになっていただろう。それに、自分の名前と同じ文字石もじいしなんて運命を感じるじゃないか。……あ、もしかしたら佐倉さくらくんが乃々ののと名付けられたのは、その石の力かも」


「いえ、私の名前の由来は、誕生日が9月9日で、『9』が平仮名の『の』に見えるからですけど」


「でもさ。なんで乃々ののの身体の中からいしが出てきたんだ?」


 もっともな疑問を述べる勇助ゆうすけ


 この手術により、乃々のの文字石もじいし無しで変身できた謎が解けた。


 しかし、何故、彼女の体内にいしがあったのだろうか?


「そこなのだよ江角えすみくん。そこが私も分からないんだ。結石じゃあるまいし、人間の体内で生成されるわけがない」


「じゃあ、拾って食べたのかもな」


「なんだって! 佐倉さくらくん、拾い食いは感心しないなぁ」


「2人とも、私を何だと思っているんですか……」


 ふざける男性陣に怒る紅一点の乃々のの


「はははすまないすまない。……それより、佐倉さくらくん。君のカタカナかたかなだが、名前を『ノガタナのがたな』にするのはどうだろう? ノの刀でノガタナのがたな


ノガタナのがたなって……俺のキーメイスきーめいすの時もだが、安直過ぎないか?」


「こういうのは分かりやすいのがいいのだよ、江角えすみくん。ドア銃しかり、ハンドル剣しかり、ね」


 ちなみに佐々木ささきじんイヅチいづちもイの大槌でイヅチいづち


 これもじんWワードCカンパニーに所属した時代に、十文字じゅうもんじが名付けたものだ。


 乃々ののはもう1度、出来立てホヤホヤのペンダントを見る。


 カタカナかたかながあるのは確かに良いが、どうせなら何かしらの力のあるいしが良かったな。そう思う乃々ののであった。






 7月29日。廃棄されたとある研究所にて。


「ほー。このいしはなかなか使えそーだな」

 

 とある装置にセットした文字石もじいしを見ながら佐々木ささきじんは呟く。


 このいしは、先日乃々ののから奪い取った文字石もじいしだ。


 そしてこの装置。


 これはじんWワードCカンパニーから持ち出した、文字石もじいしがどんな文字を宿しているか解析する機械だった。


 旧式ゆえ、結果が出るのに時間が掛かるのが難点だが、なかなか便利な機械だ。


「こいつを使えば、いしを集めやすくなるな」


 じんの笑い声が研究所に響く。


 だが、その笑いはどことなく哀しげだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 登場人物情報が更新されました


佐倉さくら乃々のの

 19歳。女性

 ミスコンで銅賞を貰えるほどの容姿を持つ。

 彼氏持ち。

 何故か文字石もじいし無しで、赤いモジシャンもじしゃんに変身できる。


 その理由は、体内に文字石もじいしを宿していたから。

 十文字じゅうもんじにより、文字石もじいしは摘出された。


 好きなライダーは、仮面ライダー電王(超クライマックスフォーム)



江角えすみ勇助ゆうすけ

 19歳。男性

 乃々ののの彼氏。

 青いモジシャンもじしゃんに変身する。

 文字石もじいしは『


 かん社長の命により、佐々木ささきじんと戦うことに。


 好きなライダーは、仮面ライダーディケイド(通常形態)。



かん一了かずあき

 40代。男性

 WワードCカンパニー社長。


 乃々のの勇助ゆうすけに、佐々木ささきじんを制圧するように命令する。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダー2号。



草垣くさがき天音あまね

 18歳。女性

 WワードCカンパニーの秘書。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーレーザー(バイクゲーマーLv.2)



十文字じゅうもんじたいら

 40代。男性

 文字るもじるドライバーどらいばーの開発者。


 科学者だけど医師免許も持っています。

 

 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーデューク(レモンエナジーアームズ)


 

佐々木ささきじん

 29歳。男性。

 黒いモジシャンもじしゃんに変身する。

 文字石もじいしは『


 廃棄された研究所を根城にしている。



佐々木ささき奈央なお

 享年20歳。女性

 佐々木ささきじんの妹。


 プロトぷろと文字るもじるドライバーどらいばーの欠陥により、死亡 

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