黒いモジシャン

 瞬時に目を瞑る乃々のの


 彼女は死を覚悟した、勇助ゆうすけに殺されると本気で思った。


 だが。


「……」


 手が震える勇助ゆうすけ


 彼は振り上げた鈍器を下ろせずにいた。


 その瞬間、キーメイスきーめいすに蓄積されたパワーが行き場を失い、暴発する。


 爆風と爆炎が勇助ゆうすけを襲う。


 彼はその場に倒れこむ。


勇助ゆうすけ!!」


 虫の息になった勇助ゆうすけの背中を擦る乃々のの


「ハァ、ハァ。……やっぱり、俺にはできないや。乃々ののを、大切な人を倒すなんて」


 ギリギリのところで勇助ゆうすけは踏みとどまった。


 やはり優しい彼にはできなかった、愛する人を倒すなんて辛い芸当は。


「だらしねえヒーローさんだな。お前を見ていると、イラつくぜ」


 陰から現れる者は1人の男。乃々ののを倒すように勇助をそそのかした、あの男。


「誰よアンタ……」


「お前らみたいな半熟ヒーローなんざ、俺が全員倒してやるよ」


 そう言うと、男が懐から何かを取り出す。


 それは……。


ドライバーどらいばー……?」


 乃々のの勇助ゆうすけが使っている文字るもじるドライバーどらいばーに酷似していた。


 しかし、形が似ているだけで色は全く違う。


 2人のドライバーどらいばーが白をベースにしているのに対し、男が持つものは真っ黒だった。

 

 謎のドライバーどらいばーを装着する男。


「変身」


 ――START WORDING――


 まるで電子英和辞書の発音機能のような機械音声が鳴る。


 アーマーがどこからともなく現れ、男に装着される。


 男は黒い装甲の戦士となった。


モジシャンもじしゃん……?」


 そう。それはまさに勇助ゆうすけ乃々ののと同じ、モジシャンもじしゃんだった。


 だが2人とは異なり、異彩なオーラを放っている。


「まずはそこの死に損ないからだ」


「!! させない!!」


 男の標的が勇助ゆうすけだと知った乃々ののは、男の前に立ちはだかる。


「女風情がモジシャンもじしゃんを名乗ってんじゃねえよ!」


 黒いモジシャンもじしゃん乃々ののを襲う。


 殴る蹴るパンチキックの応酬。


 攻撃と防御と回避。


「くっ!」


 この戦い、黒の方が優勢だった。


 さっきの勇助ゆうすけとの戦闘で乃々ののが消耗していたのもあるが、原因はそれだけではない。


 この6日間、男はずっと見ていたのだ、乃々ののの戦いを。


 そして乃々ののの戦闘スタイル、パターン、癖などを熟知していた。


 だから彼には分かる、次の乃々ののの動きが。


 どんな攻撃をしてくるのか、どのようにして防御するのか。


「や、やめろ!!」


 力を振り絞り、黒いモジシャンもじしゃんの腰にしがみつく勇助ゆうすけ


「雑魚が。来い、イヅチいづち!!」


 男が手を天に掲げると、大槌が出現。男はそれを手に取る。


 イヅチいづち、この大槌……ハンマーが黒モジシャンもじしゃんの武器だ。


「おらよ!!」


 イヅチいづち勇助ゆうすけの後頭部を殴る。


 たまらず手を離す勇助ゆうすけ


 さらに大槌で殴る男。


 勇助ゆうすけは吹っ飛ばされる。


勇助ゆうすけ!! ……アンタよくも」


 恋人を攻撃されたことにより、乃々ののの頭に血が昇る。


 彼女は怒り任せに攻撃を仕掛ける。


 だがこの前の『文字化けもじばけ同様、怒ると冷静さを欠いてしまうと隙が生まれる。


 ましてや相手は大槌という武器を持っている。


 丸腰の乃々ののでは圧倒的に不利だ。


 イヅチいづちの打撃を喰らい、乃々ののは後方へ吹き飛ばされる。


「諦めな、女。カタカナかたかなも使えないお前に勝ち目はない」


カタカナかたかな……?」


 文脈と状況から察するに文字の片仮名でないことは、乃々ののも理解していた。


「なんだ。カタカナかたかなも知らねえのか。とんだモグリだな」


 乃々ののを嘲笑う謎の男。


 その態度に乃々ののはムッとする。


カタカナかたかなってのは文字石もじいしが作り出す、モジシャンもじしゃんが使う武器の総称だ。文字石もじいしの種類によって武器は変わる。そして全部のいしカタカナかたかなを生み出すわけじゃねえ、特定の文字石もじいし……片仮名の元になった漢字を宿す石に限られる」


 何故この男はそんなに詳しいのだろうか、乃々ののは疑問に思う。


 だが今の彼女に、答えを考える余裕はない。


「お前が持ついしがどんな文字を宿しているかは知らねーが、2つだけ言える。1つは片仮名を構成する漢字のいしではないこと。そしてカタカナかたかなが使えないお前は俺には勝てないことだ」


「……武器の有無が勝敗を分けるのなら、これならどう?」


 乃々ののは足元に転がっていたある物を掴む。


 それは……。


勇助ゆうすけ! ちょこっと借りるわよ」


 それは勇助ゆうすけ愛用の武器、キーメイスきーめいすだった。

 彼氏の鈍器を乃々ののは持ち上げようとする。


「これで互角……互角、ごか、あれ? なにこれ、なんで動かないのよ!」


 いや、正確には持ち上げようとした、と言った方が正しい。


 乃々ののキーメイスきーめいすを持ち上げることができなかった。


 モジシャンもじしゃんになれば当然腕力も上がる。

 

 キーメイスきーめいすくらい簡単に持ち上げられると乃々ののは思い込んでいた。


 しかし鈍器はピクリとも動かない。


 重くて動かないというより、地面にがっちり固定されている、そんな感覚を乃々ののは感じた。


「馬鹿かお前。カタカナかたかなはその文字石もじいしを持つ者、つまり出現させたモジシャンもじしゃんにしか扱えねーんだよ」


「え、そうなの!?」


「……とんだ茶番だな。これで終わりにしてやる」


 そう言うと男はドライバーどらいばーの青いボタンを押す。


 ――DESTROY ERASER――


「安心しろ、死なない程度に手加減はしてやる」


 男はイヅチいづちにエネルギーを蓄える。

 そして乃々ののに向かって振りかざした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 登場人物情報が更新されました


佐倉さくら乃々のの

 19歳。女性

 ミスコンで銅賞を貰えるほどの容姿を持つ。

 彼氏持ち。

 何故か文字石もじいし無しで、赤いモジシャンもじしゃんに変身できる。


 謎の黒いモジシャンもじしゃんと対峙する。


 好きなライダーは、仮面ライダー電王(超クライマックスフォーム)



江角えすみ勇助ゆうすけ

 19歳。男性

 乃々ののの彼氏。

 青いモジシャンもじしゃんに変身する。

 文字石もじいしは『


 乃々ののを倒そうとするが、寸でのところで踏みとどまる。

 現在、戦闘不能状態。


 好きなライダーは、仮面ライダーディケイド(通常形態)。



かん一了かずあき

 年齢不詳。男性

 WワードCカンパニー社長。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダー2号。



草垣くさがき天音あまね

 18歳。女性

 WワードCカンパニーの秘書。


 好きな仮面ライダーは、仮面ライダーレーザー(バイクゲーマーLv.2)



たいら

 40代。男性

 WワードCカンパニーの開発部社員。



・謎の男

 年齢不詳。男性。


 謎のドライバーどらいばーを使用して、黒いモジシャンもじしゃんに変身した。

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