義務教育勇者 エピソード:ゼロ

ちびまるフォイ

お前ら義務教育してから冒険しろ!

トラックをひいたことで、運転手は天に召された。

目を覚ました場所で台本ガン読みの女神が転生のチャンスをくれた。


「というわけで、勇者1205号。世界を救ってきてください」


「その呼び方なんかとかなりませんか!?」


さっそく転生すると予想通りというか期待通りというか、

ファンタジーまっしぐらな世界にやってきた。


「ようし、これから世界をガンガン平和にして

 女の子にキャッキャ言われるぞ!!」


「あーー。君、ちょっといいかな?」


「え? なんですか?」


「いいから。異世界転生したばかりなんでしょ? こっち来て」


完全に職務質問されるテンションで連れて行かれたのは学校だった。


「なんでこんなところに学校が……」


「来たか!! 転生のゴミ虫ども!!

 転生して異世界で好き勝手できると思ったら大間違いだ!!」


教壇では美人の先生が、その顔面が崩れるほどの剣幕で教鞭をふるう。

周りには俺のように転生してきたばかりらしい人間がいる。


「異世界で冒険をはじめられるのは義務教育が終わってから!! いいな!」


「「「 サー! イセカイ、サー! 」」」


「え、えええ!?」


カツカツカツ。

ヒールを響かせながら異世界教員がやってくる。

目の前に迫られるとますます怖くなって魔王がチワワに思える。


「貴様、返事をしなかったようだが?」


「あ、あの……すでに世界は魔王軍によってピンチなわけですし……。

 ここで義務教育するヒマあったらさっさと倒しに行った方が……」


「それはない。絶対にだ。だから安心して勉強にうちこめ」


「なんでそう言い切れるんですか……?」


「私がそう言ってるからだよ!!」


教員の乗馬用ムチがケツに飛んできた。悲鳴も出ないほどの痛さ。

異世界なので教員免許もなければ、教育委員会もない。体罰は無法地帯。



「それで、貴様はここで義務教育6年を受けるんだ。いいな?」


「ろ、6年!?」


「返事はイエスか、サーだ」


「さ、サー! イセカイ、サー!」


こうして6年間の異世界義務教育がはじまった。


 ・

 ・

 ・


「では社会の授業だ。勇者たるもの世界を救った後の国を経営し

 発展させていく必要がある。ゲームのようにクリアして終わりじゃないぞ」


教科書で国の運営を学び、ノートをとって、ペン回しをする。

これじゃ現実と異世界でやってることは変わらない。


今、こうしてる間にも魔王は攻めてきてるかもしれないのに。


「体育の時間だ。全員外へ出ろ!」


体育着に着替えて異世界校庭に出る。


「冒険に仲間は必要だ。そこでコミュニケーションが必要になる。

 今から好きな人と組になってチームを作れ。

 余ったやつは、現実世界に蹴り戻してやる」


「サー! イセカイ、サー!!」


転生者たちはいっせいに動き出して俺だけあぶれてしまった。

教員は眉間にしわを寄せて思い切り怒鳴った。


「*************!! ************!!」


(※青少年にふさわしくない情報が多分に含まれているための配慮)


「ごめんなさいぃ!」



「*******!! *******!!」


(※セリフが思いつかなかったわけでなく、あくまでも配慮です)



「僕が悪かったですぅ!!」



こっぴどく叱られてこれ以上耐えきれなくなったため保健室に逃げた。


「はぁ……こんなはずじゃなかったのに……」


転生時にチート能力をもらってウハウハできると思ったのに。

待っていたのは退屈な授業ばかり。


こんなのやっぱり間違っている。


「こんなことやってる場合じゃない!

 明日にも世界が終わるかもしれないのに6年も義務教育してられるか!!」


異世界学校を飛び出して魔王のもとへ向かった。



まがまがしくそびえる魔王城を前にごくりと生唾を飲み込む。


「ここが魔王城か……予想通り、いや予想以上に邪悪な気配を感じる……!」


恐ろしいモンスターたちがうようよいるのだろう。

極悪非道な魔王が待っているにちがいない。


この先は間違いなく地獄だ。



――ゴゴゴゴゴゴ。


魔王城の扉を開けた。





「いいですか、転生魔王のみなさん。

 魔王としてちゃんと世界を滅ぼすには魔王義務教育6年をしてからです。

 ただしく、長続きできるように世界征服を進めましょうね」


「サー! マオウ、サー!!」


扉の向こうで待っていたのは義務教育中の魔王たちだった。



「なんですか君は! 今は義務教育中ですよ! 用がないなら帰りなさい!!」



そんなこんなで6年後、義務教育を終えた魔王と勇者の激しい戦いがはじまる。

これは知られることのない前日譚となった。

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