できれば始まりたくなかった関係
僕の……えーと……あ、愛する……彼――北高コンピュータ研究部新入部員の一人、守家との出会いは不思議なものだった。
僕は日本人の父とホンジュラス人の母から産まれたハーフで、小学生の頃、如何にもそれらしい容貌から、僕は学校で手酷い扱いを受けていたものだ。
そんな毎日を過ごしていたころの、ある夏の日。僕は一瞬の気の迷いからいつの間にか道路に飛び出してしまっていた。その時身を挺して助けてくれたのが守家だ。まあ、このことは後々彼に聞かれるまで、あまり詳しく思い出せなかったのだが。
さて、僕は何事もなく2年4組に進み、守家、幼なじみの佐東と一緒のクラスになった。
佐東は幼少期をフランスで過ごしたことのある、これまた僕と同じハーフだ。彼とは小学生の頃、教会で知り合った。ああ、二人ともカトリック教徒なんでね。佐東から僕にアイコンタクトを取ってきたのがきっかけで、段々と親しくなっていった。
それから僕と佐東は一緒の私立中に通っていたが、その、僕のせいで疎遠になってしまった時期もあったな……。そこら辺は、きっと彼が詳しく書いてくれるだろう。僕が止めてもどうせ聞かないだろうからな。アイツは性的な事柄を忌避している僕に、堂々とその手の話題を振ってくるようなヤツなんだ。そろそろいい加減にしろよ、まったく。
そうそう、前年度から同じくコンピ研に所属の児林は、隣のクラスだったな。彼はとても明るくて気前がいい性格だ。油断すると彼の勢いに飲まれそうになるくらいだ。あと、実家が神社だと聞いている。どうやらホラーやミステリーの類を非常に好んでいるらしいが、僕としてはあまりそういうのは食指が伸びないな。映画ならたまにレンタルしたやつを見るんだが。1年部員の御門は、僕が与えた仕事を熱心にこなしてくれるし、普段素直に僕の指示を聞いてくれるいい子だ。ただその分、そうでないときが怖くもあるが……。とにかく、彼からは十分伸び代を感じられるよ。
僕らが進級して間もない頃、昼休みに佐東が守家を誘って、3人で学食で話したのがきっかけだったっけな、そういや。守家ははじめ、何を考えているのかよく分からない印象を持っていたが、いざ話してみると案外いいヤツそうだと分かった。
その日の放課後、僕らは守家を連れ、部室に向かった。部室には、ちょうど児林もすでにいた。守家はドア枠に頭をぶつけないように確かめながら入り、興味深げにぐるりと部室全体を見回す。僕が一通りコンピ研の活動内容について説明すると、守家はありがたいことに、その場で入部の意志を示してくれた。なんとか新入部員を一人確保したぞ!いやしかし、本当に、本当に良かった。
前年度のコンピ研はひどい有様だった。ありゃ実質サブカル研究会だ。活動実績を作るためにも一応、ゲームを文化祭で発表したよ。だが他の部員どもの勝手な発案で、脱衣ブロック崩しなどという低俗なものを発表する羽目になってしまったんだ。しかも当の発起人たちはサボってばかりで、当時1年の僕と佐東と児林に任せっぱなしだ。ひどい話だろう!?まったく。
とりあえずその日は特にこれといった仕事は無かったため、自由活動とした。守家は用事で先に帰ったが、僕らは世間話をしながらしばらく部室に残っていた。
はてさて、これから新入部員は増えてくれるのかなあ……。
新歓発表を終えてしばらく経ったある日、いつものように四人で部室にいると、ドアをノックする音が響いた。普段誰も来ないのに。――はーい。僕が返事をすると、ゆっくりとドアが開き、小柄な男の子が姿を見せる。上靴を見るに、一年生か。
「すみません。コンピュータ研究部の入部を希望してるんですが、今お時間大丈夫ですか?」「ああ、いいよ。キミ、名前を教えてくれるかい?」
僕は簡単に自らが部長であることを伝え、コンピ研の紹介をする。御門はまっすぐな瞳で僕を見ながら、ときおり深く相槌を打って熱心に聞いていた。いいな、こういうの、いかにも後輩らしくて。説明を終えたあと、僕は彼に入部届を渡す。
「御門くんの入部を、楽しみにしているよ」「丁寧な説明、ありがとうございます。検討してみますね」
彼が部室を去り、自分の席に戻ろうとすると、佐東がいかにもニヤニヤした表情を浮かべているのが僕の目に入った。僕はおもわず怪訝な表情になる。
「な、なんだ佐東、その顔は……?」「ああいえ、あの子がここに入ってくれたらいいなぁって思いまして」
ここで補足しよう。部活中は部長の僕に対して、たとえ同学年でも敬語を使うように皆に伝えてある。リーダーとしての自覚を高めるため、まずは形から入ろうと思ったんでね。佐東の反応はともかく、僕も彼が入部してくれることを願うよ。
数日後、御門はふたたび部室を訪れた。めでたく入部してくれることになったが……どうやら、記入済みの入部届を忘れてしまったらしい。ひとまず彼には後日入部届を出してもらうことにさせ、全員で自己紹介をすることになった。これでまた、自分の好みを前面に出したオリジナルゲームを発表するという野望に近付いたな!――と、当時は密かに喜びを噛みしめていたものだ。そう、まだこれから起こる悲劇も知らずに。
あの事件は、本当は思い返すのさえ嫌になるが……まあいい。かいつまんで書くとしよう。その日、僕らは自由に活動をしていた。まあ僕は、オリジナルゲームの構想を自発的に練ってはいたけど。すると突然、団長さん――1年の涼宮ハルヒ、同学年の朝比奈みくるさんをはじめ、二つ隣のSOS団団員が部室にズカズカと入り込んできたんだ!パソコン一式頂きに来たなどという、ふざけたことを言い放ちながらな!そこから事態がどんどん悪化していった。朝比奈さんの胸を団長さんに無理矢理触らされ、しかもその瞬間を使い捨てカメラにバッチリ撮られてしまった。同行していた1年のSOS団男子団員……えーと、キョンなどと呼ばれていたか。彼も団長さんを一向に止めようとしないし、部員たちも僕を心からかばおうという態度を見せてくれなかったし、最悪に卑俗な脅し文句をつけられるしで――はぁ……もう、散々だった。パソコンの設置作業まで僕らが手伝う羽目になったよ。
そして、僕は決意した。必ずやオリジナルゲームを完成させ、SOS団と対決し、勝利することを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます