エピローグ

「十四歳おめでとう!」

「おめでとう!」

「ありがとう、みんな」

 ――愛矢です。

 今日は九月八日。去年と同じように、今年もみんなに誕生日を祝ってもらって、楽しい一日を過ごしました。

 例によって愛弓は武居とのおしゃべりに夢中。おじゃま虫のわたしを、古藤先輩が「庭に出よう」と誘ってくれました。二人きりになるのは久しぶりなので、何だかちょっと緊張してしまう。

「そういえば、去年のひまわりの種、どうした?」

 先輩はまったく意識せず、何気ない調子で話し掛けて来ます。

「まだ持ってるよ」とわたしは答えました。

 瓶に入れて今も大事に飾ってあるんだ。

 先輩は飲もうとしていたグラスのサイダーから口を離しました。

「まだ持ってるのか。もうとっくに食べてしまったものと思ってたよ」

 食べられなかった。

「言ってくれれば、俺が花壇を作ったのに」

 蒔いてしまうのも、何となく嫌だった。

「折れたひまわりのあとにすぐ蒔いていれば、夏のうちに咲かせてやれたのに……」

「あ……」

 ――そこまで考えなかった。

「ごめん、先輩」

「いや、別にいいけど。でも何でしまったままにしとくんだ? もったいない」

「だって……」

 だって……初めて先輩にもらった物だから、ずっと手もとに取っておきたかったんだよ。

 先輩はきょとんとした顔でわたしを見ています。

「何だ?」

「あのね、先輩」

 わたしは姿勢を正して先輩を見上げました。

 前に言いそびれて、それっきりになってしまった言葉。

「わたし……」

「ん?」

 先輩がわたしの目を覗き込み、息が掛かるくらいに、顔が近付いて。

「わたしね……」

 ――今日から十四歳です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る