カテキン

@Tanakakagaku

牧野 煎

牧野 煎(まきの せん)は、

いつものようにコンビニで弁当とペットボトルのお茶を買い家に帰った。リビングのソファに腰を下ろしてテレビをつけると、夕方のニュース番組が丁度始まるところであった。県内の交通事故やイベントが紹介される。県立美術館では、明日から日本の名刀が一同に集まる「日本の名刀100選」が開かれるらしく、全国のマニアにとって夢のような企画だと、館内の学芸員は興奮気味に語っていた。

もちろん、牧野はそんなことに興味なく、ポチポチとチャンネルを押しながら、番組を変えていく。

テレビを見ながらコンビニで買った弁当に手を伸ばし、外装フィルムを剥がして蓋を開ける。店で温めてもらっていたので、蓋を開けた途端、熱気が舞い上がり、彼の味覚を刺激した。

ペットボトルのお茶を手に取り、蓋を開け、飲み口に口をつけようとした。まさに、その時だった。

ピンポーン

ペットボトルをテーブルに置き、玄関へと向かう。インターフォンで相手を確認してドアを開けた。

「なに 、どした?」

ドアの前には、学生服を着たショートカットの少女が手に風呂敷包みをもって立っていた。

「煎ちゃん、これ」少女は手にもった風呂敷包みを牧野に手渡した。

彼女の名は、岡田 八女(おかだ やめ)

近所に住む幼馴染みである。

「煎ちゃんの好きな卵焼きとカレイの煮付けも入っているからね」

「悪いなー、いつも」牧野は申し訳なさそうに、包みを受けとる。

「いいの!毎日コンビニ弁当じゃ体に悪いからさ」八女は、そう言ってはにかみ、可愛らしい笑顔をみせる。

「じゃあ、また明日学校でね」

「うん」

 

ドアを閉め、ソファに戻る。

風呂敷包みを開けると、タッパーのなかに、彼の好物が詰められていた。

「明日食べよ」タッパーは冷蔵庫に入れ、先程食べようとしていた弁当に箸をつける。白米をすくい上げ、口に放り込む。反射的にペットボトルを手に取り、口に含む。水分が必要だと思った。ペットボトルの内容物(水分)が食道を通って白米を胃へとゆるやかに運んでいってくれる、はずだった。

ペットボトルの飲み口に口をつけた瞬間、まばゆい光が牧野の目の前に現れ、彼は目を開けてはいられなかった。目を閉じながら、彼は違和感を覚えていた。無機質なボトルの飲み口ではなく、柔らかくて暖かく、かすかに日本茶の香りが鼻先に掠めていく。なんとも不思議な感触なのだ。

やがて光は弱まり、ゆっくりと目を開けると、女性の柔らかい唇が自分の唇と触れあっている光景が飛び込んできた。

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