病夢とあんぱん その19
とある
名前を
では、そんな女子中学生が廃ビルの屋上で何をやっているのか?解答例を二つ挙げてみよう。
①お手伝い。
②犯罪。
①は西向井から見た場合。②は
(なんで私、こんなことやってるんだろ・・・)
「こんなこと」というのはつまり、西向井の所属している組織の上層部、いわゆる「偉い人」から任された「お手伝い」である。
とはいっても、彼女の「お手伝い」はこの時点でほとんど終了している。ターゲットである
『
それが彼女の抱える『
ペティナイフも、コンパスも、ハサミも、ボールペンも、包丁も。
彼女の意志には関係なく。か
投げたものは、人を殺し、物を破壊する銃弾となる。
その『糾弾の病』によって、彼女の人生は狂いだした。具体的には、誤って親友の脳を打ち砕いてしまった時点から。
とはいえ、これはまた別のお話だ。
(いざとなったら、殺してもいいって言われてたけど・・・そんなの無理だよ・・・)
「お手伝い」を達成した今となっても、彼女の表情は晴れなかった。むしろ、
彼女が女子中学生であるというのは、本来ならば、という意味だ。厳密には、彼女は現在中学校に通ってはいないので、中学生を名乗るのはおかしな話である。
しかし、彼女が十四歳の多感な女の子であるという事実は、中学生であろうが、なかろうが、
柳瀬優がトイレに入ったという連絡を「相方」から受けた彼女はまず、氷田織畔を狙った。『糾弾の病』によって発射される銃弾で、軽い怪我を負わせ、その場から氷田織を離れさせるつもりだった。
ひらりと、
とはいっても、彼女はそれでショックを受けたりはしなかった。むしろ、なるべく他人に怪我をさせたくないと考えている彼女にとっては、好都合だったのだ。だから、その後もなるべく氷田織を傷つけないように追い詰めた。柳瀬を誘導する方向と逆方向、つまり、ショッピングモールの方へと追い詰めた。
氷田織がショッピングモール付近の建物内に入ったのを確認したところで、次は柳瀬に狙いを定めた。柳瀬の逃亡ルートをコントロールし、「相方」と打ち合わせをしていた目的地まで彼を
彼女はその点において、非常に優秀だった。ほぼ作戦通りに、事を運んだのだ。女子中学生にしては、これ以上望むべくもないくらいに優れていた。
(あの氷田織って人・・・しばらく建物の外には出てこれないだろうな・・・)
そもそも、こんな「お手伝い」自体、彼女は乗り気ではなかったのだ。自分の大嫌いな『病』によって他人を
その『病』によって他人を殺すなんて、もってのほかである。
(でも、後はあの人がやってくれる。柳瀬って人を殺すのは、私じゃなくてあの人のお仕事。もしかしたら、氷田織って人も殺すのかも・・・)
彼女は体育座りになって、風景を見渡す。特に何かを考えているわけでもなかったが、帰る前に自分の気持ちを落ち着かせかったのだ。
(戻りたい・・・)
普通の中学生に戻りたい。と彼女は思った。
友達と何気ない話で笑い合っていたあの頃に。
勉強を頑張ったり、サボったりしていたあの頃に。
趣味のテニスに
戻りたいと、切実に願った。
(なんで、私、こんな・・・)
ついに、彼女の目からは一粒、二粒と涙がこぼれ落ち始めた。
なんでこんなことを、私がしなくちゃならないのか。
こんな、犯罪者みたいなことをしている自分が悔しくて、泣いた。
変な『病』を背負ってしまったことが悲しくて、泣いた。
『病』で脅してしまった人に申し訳なくて。自分を生んでくれたお母さんとお父さんに申し訳なくて。
何よりも。
親友に申し訳なくて。
彼女は、泣いた。
(もう、帰ろう・・・)
どれくらい泣いていたのだろう?10分だったかもしれないし、一時間だったかもしれない。
もしかしたら、一日中泣いていたのかもしれない。
帰ったら、ちゃんと偉い人たちに言おう。もうこんなことをしたくないって。今回は渋々引き受けたけれど、もう二度とこんな、犯罪者みたいな
もうこんなことをさせないでください。
普通の中学生に、戻りたいんです。
そう、言おう。
彼女は、脇に置いておいた、武器(鋭利な刃物やら、細長い文房具やら)の入ったリュックサックと双眼鏡を持ち上げて、立ち上がろうとした。
彼女は、非常に優秀だった。
しかし、
人を殺せないという点において、非常に劣っていた。
「こんにちは」
そんな
振り向けなかった。
振り向くことも、立ち上がることも、彼女には出来なかった。
誰かの
普通の中学生に戻ることも出来ず。
大人になることも出来ず。
こうして。
西向井由未の十四年という短い人生は、幕を閉じた。
彼女の
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