病夢とあんぱん その10
「我々は病気なのですよ。『
唐突に、
病気?
『病持ち』?
「それは・・・持病があるってことですか?」
それはそれで不幸なことだが、それが今の状況とどう関係があるんだ?
「そうとも言えますね。しかしこの場合の『
ぽりぽりと頭をかく沖さん。どうやら、説明が得意という
「そうですね・・・・
「そりゃまあ、読んだことはありますけど・・・・」
特に高校生くらいのときはよく読んでいた。今は、「子どもっぽい」という理由であまり読まなくなってしまったが(この考え方こそ子供だ)、あの頃は毎月、雑誌の新刊の発売が待ち遠しかったものだ。
「少年漫画でなくとも、SF映画やファンタジー小説でもよいのですが、その中には、なんというかこう・・・・超人的な能力を使えるキャラクターが出てくることが多いと思うのです。魔法が使えたり、空を飛べたり、スーパーパワーを持っていたり・・・・わかりますか?」
「わかりますよ。僕もそういう世界観は好きな方です」
そういう風になりたいとは、思わないが。
「好き、ですか。それは結構なことです。しかし・・・どうでしょう。そういう人間が実際にいて、しかも、普通に身の回りで生活していると言えば、どう思いますか?」
「え?いや、どう思うって言われても・・・・」
まぁ正直に言わせてもらえるならば、単純に怖いと思う。
気持ち悪いと言ってしまっても、いいかもしれない。
たとえば、今、世界が悪の魔王か何かに支配されているというならば、そういう人たちの出番もあるかもしれない。
しかし、現実はそうではないのだ。
そんな超人的な力を持った人間が近くにいるならば、それは恐怖と
ただでさえ、異端な行動をとる人間や、変な考え方を持つ人間は、他人から避けられがちなのだ。そんな超能力者がいるならば、さっさと消えてほしいと切に願う。
「怖い、ですかね」
いろいろ思うところはあったが、結局、
「怖い。そうでしょうね」
「でも、仮定の話でしょう?」
なんだか話がごちゃごちゃしてきた。
病気と少年漫画。どういう繋がりがある?
「そう。仮定の話です。こんな話は、本当は仮定にしておいた方がいいんです・・・。しかし・・・・私たちがそれに近い力を持っているということは、伝えておいた方がいいでしょうね」
沖さんは力なく微笑んだ。
無理して笑っている、そんな感じだ。
そして、視線を下に落としながら言う。
「いや、力なんて、おこがましい。能力などとは、表現したくはない。私たちが抱えている『病』は、劣等感やコンプレックスといった方が
邪魔なのですよ、と沖さんは言う。
「邪魔なのです。こんなものは。こんなどうしようもない
僕は察した。
沖さんは考えなしに、唐突にこの話を始めたのではなかったのだ。
唐突に話すしかなかった。
ゆっくり
それは、自分たちの欠点を、短所を、他人に話さなければならないということだからだ。
「ふう・・・・・・」
と、溜息をつきながら顔を上げた沖さんは。
もう、笑ってはいなかった。
ただ目を閉じ、言葉を紡いだ。
「そういう『
他人と違い、特別である。
そんな、異常者なのです。
と、沖さんは繰り返した。
紅茶は随分と冷めてしまった。
しかし、沖さんの話はまだ続く。
「あなたを襲った人間も、私どもと同じ、『病持ち』であると断言してよいでしょうね。『
『感電死の病』。
確かに名前に反して、電気で『殺す』のではなく、電気を『操る』というのは、ちぐはぐ感が否いなめない。
でも、それ以前に、だ。
「あの、沖さん?」
「なんですか?」
「まだ半信半疑・・・いえ、全然信じられないと言ったら、怒りますか?」
「いえいえ、怒りませんよ。信じられなくて当然です。むしろ、最初から話を
本当に困ったように肩をすくめる、沖さん。
「あなたの都合のいいように解釈してくださって、全然構わないのです。『病』というのも一つの解釈であって、『才能』だとか、『能力』であると考えている者も、多少なりといるようですから。ただし、そういう人間がいる、ということは理解しておいてほしいのです。そして、そういう人間があなたを殺そうとしている、ということも」
・・・・それでは、お言葉に甘えて、『病』が何なのかは脇に置いておくとして。
つまり、その電子機器を自由自在に操れるという危険人物が、僕のことを狙っている犯人ということか
なるほど。どんなトリックを使えば、あんなことが出来るのかと思ったが、確かに「もともと出来る」というならば、タネも仕掛けも必要ない。
なんてこった。
とんでもない人間に、目をつけられてしまっているではないか。
しかも、話を聞いてしまったからには、危険性がぐんと上がる。
もう帰りたい。
「沖さん。聞かなかったことには・・・できませんかね?」
「無理でしょうね」
即答だった。
「あなたが、これだけ深く話を聞いてしまったということは、そのうち周りに伝わってしまうでしょう。そうなれば、向こう側・・・つまり、あなたを殺そうとしている側の人間は、今以上にあなたを放っておけなくなる」
どうやら、相当追い詰められてしまっているようだ。
わかってはいたが。
「・・・・・二つ、質問してもいいですか?」
「いいですよ。だいぶ夜も深まってしまいましたが・・・それくらいの時間はあるでしょう」
「なら、一つ目。なぜ、あなたたちは僕を殺さないんですか?」
「ん?」
沖さんは不思議そうに首を
「いや、だから・・・話を聞いてると、『病』のことを知った人間を、放っておくわけにはいかないんでしょう?殺さなければいけないくらいに。何故そこまでするのか、よくわかりませんが・・・・。それなら、なぜ、あなたたちは僕を殺そうとしないんですか?」
「あぁ、そういうことですか」
納得したように、沖さんは
「それは、ここが『
「え?」
今度は僕が疑問符を浮かべる番だった。
だからですよ、と言われても。
「『海沿保育園』は誰でも保護するのです。どんな人間でも、ね。どんな病人も、犯罪者も、助けを求められれば、私は助けます。当然、あなたも例外ではありませんよ。あなたは、私に助けを求めた。だから助ける。そういうことですね」
「・・・神様気取り、ですか?」
「
微笑む、沖さん。
でも、そうか。なるほど。と表面上だけは納得できた。
それなら、命だけは保証するというのも頷ける。
そもそも、誰に対しても害をなすつもりがないのだ。それはそれで、随分都合がいいようにも思えるが・・・・。ひとまず、ここにいて僕の命が
もちろん、沖さんの言葉を全て信じるなら、という
「じゃあ、二つ目の質問なんですけど」
と、さきほど
「『病』でも、『能力』でもなんでもいいんですけど・・・そういうのがあるとして、沖さんは一体、その・・・どんな病気を抱えているんです?」
と、質問してから「しまった」と思った。
「私たち」と言っていたことから、沖さんも何らかの『
いや、いい加減、そろそろ怒らせてしまうかもしれない。
そう思ったのだが。
「私は」
「『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます