過去のバンドマン

輝凛

第1話

僕はいま22歳。普通に高校を卒業をして普通の工場に務めている22歳だ。


趣味は特にない。だが人と話すのは好きだ。


特技はいっぱいある。僕は母親1人、弟1人といままで生活をしてきたので、家事全般は得意としている。


あと好きなものはあった。バンドが好きだった。いまも好きではあるが人前では好きだとは言わない。洋楽が好きという。好きでもないのに。


バンドをやっていた時期があった。最近までやっていた。ちゃんと家にはギターもベースも置いてある。今はただのオブジェになっているが。


バンドを始めたきっかけは、高校1年生の頃、中学が一緒だった弘毅に誘われたからだ。歌が上手いという理由で。


だが僕は自分の声が嫌いだ、昔から声が高くバカにもされていた。最初は嫌だと思ったのだが、なぜか僕は弘毅に「いいよ」とメールを送っていたのである。


そっから弘毅から一斉メールでまた連絡が来た。たぶんこれがメンバーなのだろう。他のメンバーも見覚えのある面々だった。でも全員なんのパートをやるかさっぱりわからなかった。もはやこいつら楽器できるのかと思ったぐらいだ。


パートはわからないが、とりあえず来たメールは「バンド名を決めよう!」というチュートリアルのようなメールだ。正直別にどうでもいい。どうせすぐ誰かが飽きて辞めるのだろう。適当につけたって自分の黒歴史になるくらいのことだ。


みんないろいろ名前を出し合っている。「テキサスマシンガン」だとか「滑空の僧侶」だとか。本当にこいつセンスがないと思ってしまったのは今でも秘密にしている。そこで僕は「みんなの名前のイニシャルからつければいいんじゃない」というすごくベタな事を提案した。もちろんめんどくさかったからだ。しかもまぁまぁ遅い時間、明日も学校なので早く寝たかった。


だがよくよく考えると、僕は瞬なのでS、弘毅と和人と圭介はK、風雅はF、この三文字でバンド名が出てくる気がしなかった。ちゃんと考えて発言しとけばよかったと後悔をした。一応補足だが風雅は高校から一緒で、言い出しっぺの弘毅は、高校は別のとこに行った。和人と圭介は中学からずっと一緒だ。


こっからバンド名が決まるのは早かった、少し時間がしてから、風雅から一斉メールが来た。「FreeKS」ってどうだろうと。正直こいつの事は嫌いだったが、なかなかセンスのある名前だったのですぐに「それだ、それにしよう」と送った。今回はめんどくさいとかではなく純粋にこれだと思ったからだ。ちょっと早く終われとは思っていたが。


バンド名が決まったのは今でも覚えている、少し寒かった9月の終わりごろ。たぶん20日だったはずだ。まさかここからすぐ終わると思っていたバンドが、長く短く濃くいろいろな出会いをもたらした人生になるとは、いまでも信じられなかった。バンドをやっていない自分を考えるのは怖く、でもやらなきゃよかったと思うのはこんな先になるとは思いもよらなかった。

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