ノロイノロイ 転換
「……目標を達成して、後悔を断ち切った。はずなのに、まだ呪いは解けない」
プールで、準の目標を達成した帰り。
しかし、未だに
行く先はもちろん神社。八田の所だ。
「治るまで時間差があるのかもな。まだ無駄だったって決まったわけじゃない」
「……だといいけど」
準の顔は晴れない。
目標を達成した時には、いつもの仏頂面が少しだけ明るくなったのに、今や仏頂面の方がまだマシだと思えるくらいのどん底の暗さだ。
症状が改善しないことへの失望が大きいのか。それとも、別の理由があるのか。詮索するのも躊躇われ、俺は適当な雑談を振ることしかできない。
「何か騒がしいな」
「……救急車?」
跳ね橋を挟んだ向こう岸に、2台の救急車。かなりの人だかりだ。それに隠れた奥に、黄色いテープが張られているのが見えた。
野次馬趣味は無いがどの道通り道。近くまで来て少し首を伸ばすと、担架で運ばれていく人の足が見えた。
制服のズボンの裾と、
「事故かな」
「……まさか……」
「準?」
準は、その場で乱暴に自転車のスタンドを蹴って駐車すると、鍵も外さず、人垣へ走り出した。
間もなくして救急車が走り去る。
何か様子が変だ。俺も、準のと一緒に自転車を道の橋に寄せて停め、追いかける。
「おい、どうした」
「……あの! 今運ばれたのって、
運ばれていったのと同じ制服の少年に声をかける準。そのあまりの必死さに戸惑いながらも、少年は丁寧に応じてくれた。
「はい。俺らとクラス一緒のヤツが、2人揃って轢かれたらしくて」
「……その、男の子……『
「あ、そうです。知り合いですか?」
そうです、と少年が答えた2秒後、準は、ふらっと足を1歩後ろに引いて、上体をぐらりと揺らした。
倒れかけたところで、俺の腕が、彼女を抱きとめる。こちらへ寄せた彼女の顔は真っ青で、こんなに暑い夏の日に、その歯はカチカチと音を鳴らしていた。
「準!? しっかりしろ、おい!」
「あっ、あ、あぁ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
「あーうん、大丈夫。話聞かせてくれてありがと」
見ず知らずの準を心配してくれる少年を雑にあしらって、俺は準の体を支えながら、目に入った近くのベンチへ彼女を座らせようと、そっちに歩き出した。
「離して!」
「あっ、おい!」
俺が肩に置いた手を振りほどいて、準は来た道を戻るように走り出してしまった。
体感時間が2秒遅れているとはいえ、ただ走るだけなら関係ない。たいして運動していない俺が追いつけるわけもなく、瞬く間に準の姿を見失ってしまう。
「……自転車どうすんだよ」
少し走っただけで汗をびっしょりかいてしまい、2人の自転車の前で数分途方に暮れていると、スマホにラインがきた。
『ごめんなさい』
『もう私のことは放っておいて』
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