第18話 ある夜の苦悩
——時間はまた流れて、早朝。
クレアは気心の知れた使用人に協力を仰ぎ、王宮の外へと抜け出していた。朝になり、王宮の一階にある部屋にバレてしまわぬよう窓から侵入して、自室のベッドに横になる。
(結局、何も知ることができなかった。精霊様の力が必要なんて、そんなこと不可能と言っているようなもの。わたくしには何もできない)
天蓋付きのキングサイズベッドに仰向けで横になるクレアは、幾何学模様の天井を意味もなく見つめて、何もできなかった自分を責めていた。
心中にあるのはメルクへの嫉妬——そんなものはなかった。ただただ何もできない自分への情けなさ、それだけに囚われていた。
(わたくしは……一体これから、どうしていけばいいのでしょう?)
頭の中で考えていても、良い答えなど浮かぶわけはなく、眠ろうとしても、そうさせてくれない。コンプレックスは増すばかりで、ストレスが心と体を蝕んでいた。
「クレア様、今日は昼まで時間があります。ゆっくりとお休みになって、お体をお休めください」
ドアを軽くノックし、気が置けないほどよく見知った使用人の声が自室のドアの向こうから聞こえた。その「休んでいい」という言葉が、どれほど今のクレアにとって、救済になるのか使用人には知る由もない。
「……ありがとう。わたくしは……少し眠ります。もし、わたくしが起きて来なければ、自由に入って起こしてくださると助かります」
「かしこまりました。……お休みなさい、クレア様」
「お休み。あなたも体に気を付けて」
ドアの向こうから響く使用人の声がゆっくりと離れていく。クレアは布団を被り、瞼を閉じる。
魔法が使えないという致命的な欠陥を持って、この世に生を受けた自分。周りの人々はそれでも構ってくれたが、クレアはどこか疎外感を覚えていた。クレアにとって最後かもしれない寄る辺は、奇跡を見せた彼しかいない。不憫な娘にこれ以上ない愛を注いでくれる母でもなく、毎日のように世話や教鞭をとる使用人達や騎士達でもなく、今の彼女にはあの薄汚れていた商人の少年しか頼る場所がなかった。
……けれど、もうそれも終わるかもしれない。奇跡は奇跡として、終幕を迎えるかもしれない。そう考えてしまった時、クレアにはそれが絶望でしかなくて、眠りたくても、寝付けなくて、ただただ心を病んでしまっていた。
(いつしか、わたくしに力を与えてくださいまし、精霊様。これが叶わぬ望みだとわかっていても、わたくしは祈ります)
クレアは強く心で祈りを捧げ、意識を失うように、眠りに就いた。
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