第17話 女王と占い師2
「……アルカナ、せっかくだ。久しぶりに私の魔法を見ていかないか? そこまで、会う機会もそうないだろうし」
マリリカの提案に数秒思案した後、一つ頷きを打って、返答する。
「……それもそうだ。マリリカの提案に乗るとしよう」
マリリカはそれを聞き次第、テーブルにあるティーセットを片付け始める。そして、紫のテーブルクロスの
「……では、始めよう」
マリリカの一声にアルカナも頷いて、儀式もとい魔法の発動が始まる。
「【我は欲する。世界の
始まった『
「【
集まった光の粒はやがて水晶玉の周りを三角に囲み、紅蓮の炎のような強い赤、雲一つない蒼天のような青、森林のように深く濃い緑の三つの色をした魔法陣を一つずつ形成する。
「【汝らが集い、三つの柱となりて、この世の行く末を伝え
魔法陣を踊るオラクルが垂直に高く昇り、魔法陣と同系色をした三つの柱を形成する。三つの柱の輝きに照らされた水晶玉は、光の三原色の法則のように白く輝きを放つ。
「【ノルン・ファタリテート】」
刹那、白光が部屋全体に
数秒後、白光は水晶玉に
普段、ローブを纏い、顔を隠して、名前を隠して、王宮に住まうマリリカが、ここに住むことのできる理由。それは、この魔法が使えるからだと言っても、過言ではない。
幾万、幾億という民が暮らす大国において最も大切なのは国の平和と永久の発展、その二つに他ならない。しかし、その重要な課題の実現とは裏腹に、あらゆる事象、人々の思惑、感情の揺らめき、身分格差などから平和を保つことができなくなることが大いにある。
だから、大国の統率者達は先詠みの力を欲した。未来に起こりかねない騒乱や災害、危険因子などの出現など、国の平和と発展を脅かす存在に対する全力かつ的確な対策を行うために。
マリリカはその役目を担っている。サン・カレッド王国の安全を日夜守るため、親友たる女王アルカナを守るため、マリリカは国の後ろ盾を受けながら、炭鉱のカナリアとして王宮に暮らしている。
そして、朝昼晩の三回、毎日のように行われる魔法による確定的な予測によって、サン・カレッド王国を裏から下から支え続けてきた。
定番化されたそれをアルカナの前で披露し、いつものように水晶の真上に浮かぶ未来の
「精霊の託宣も出ている。成功だ。……契約に従い、占いの儀を執り行う」
その言葉にアルカナは頷く。表情を窺って、マリリカは続ける。
「…………何だ……この惨状は……?」
「……アルカナ、よく聞いてほしい。近日、必ず起こることだ」
「……あぁ。何が起こる?」
「……サン・カレッド王国が地図から消える……かもしれない」
「地図から消える? それはどういう……?」
マリリカは恐ろしいものを見るようなそんな皺を寄せた顔で、ゆっくりと口を開く。
「言葉通り、大いなる災厄によって都市が壊滅し、人々が何人も死に絶え、地図から消え失せる。つまり、凄まじい災いが近日中に起こるということだ」
「大いなる災い……。託宣にはどう出ている?」
アルカナは女王としての顔立ちに戻り、真剣に耳を傾ける。
「……甚大な力を持った
「抗いの可能性……それが出ているだけでも助かるが、その詳細はないのか?」
「……少女はこの国の者であり、平和を祈る者。ただ、もう一人は詳しくわからない。もしかすると、この国の者ではないかもしれない。……すまない、曖昧で」
「いや、それだけでも教えてくれただけ助かるというものだ。……ありがとう」
そう礼をするアルカナの顔には不安が拭い切れていない表情が浮かんでいた。それは、実際に光景を見ていたマリリカもそうであって、外れることのないこの魔法が今回だけは外れてほしいと心の中で懇願していた。
マリリカが見ていた映像。それは、見ているだけで吐き気を催し、女子供が見れば卒倒してしまうのではないかと感じさせるほど、
サン・カレッド全域に降り注ぐ暴力の弾雨。石造りの家々が粉塵を上げながら崩壊し、抗いようのない惨劇に身を焼かれて、声を
それを地獄絵図と言わずして、何をそう言えばいいのかという形容しがたい凄惨な光景。その光景は目に焼き付いて、離れることはなかった。
アルカナとマリリカは何も言わず、部屋の窓から夜のサン・カレッドを眺めた。夜の街を照らしているのは連続して並ぶ
その平穏無事な景色を二人は数秒眺めて、何も言わず、アイコンタクトだけをして、アルカナは部屋を後にした。
自室に急いで戻ったアルカナは、テーブルに置かれたインクに羽ペンの先をつける。羊皮紙を手にし、つらつらと文章を書き並べる。育ちの良さを思わせるような美しい字で、アルカナは書き続けた。
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