魔法技師《マジックメイカー》の精霊銃
松風 京
第一章 商人と王女のサン・カレッド
第1話 プロローグ 魔法世界『フロンティア』
「……ちょっとそこのダンディーなお方。私共の商品はいかがでしょうか?」
「……私のことかな?」
立ち止まったスーツを着こなす中年の男性が呼び止めた少年の元へ目を向ける。黒髪細身、少し薄汚れた白い装束を身に纏う少年はうんうんと首を縦に振る。石畳の地面に直に布地のシートを敷き、その上に
「……何とも不思議な形をしたものばかりだなぁ。これは君が?」
訝しむように商品の一つを手に取って、物色する男性はそう少年に問いかける。
「……そうです。僕が、オリジナルで作ったんですよ。自慢になっちゃうんですが、魔法具を作るのにはそれなりの自信がありまして……」
少し焼けたその肌をポリポリと掻いて、少し恥ずかし気にそう答える。
「……ほぉ、その若さで魔法具を! 珍しい」
少年と裏腹にかなり歳のいったダンディーな男性は驚きを隠さず、少年を称える。
「……お客さん、こちらなんていかがでしょう?」
少年が手渡したのは小さな棒状の商品。側面には刻印のように彫られた魔法陣がある。
「これは、『ライトラ』。火を起こす魔法具です」
「……店主君。ちょっといいだろうか? 正直その程度ならば、自分で詠唱して火を作った方が早いのではないか?」
「お客さん、それは違いますよ。……毎日毎日同じように呪文を唱えて、たまに
懐から取り出した同様の『ライトラ』のボタンをカチッと押すと案の定小さな火が灯る。
「これは、凄い! どのような、原理なんだ?」
「それは、企業秘密で」
少年は自然な作り笑いを浮かべて、そう言う。客の男性は「あぁ~」と納得したように微笑んで、それ以上言及することはなかった。
「……で、お客さん……これ一つで銅貨五枚。お買い得だと思うのですが、いかがでしょう?」
手をすりすりと擦り合わせて、客の男性に近づく。
「……確かに安い。……ちょっと、待っていてくれ」
男性は少年に背を向けて、少し離れて、一人ぼそぼそと何かを呟き始めた。そして、数分後戻ってきた男性は、すぐに銅貨五枚を少年に手渡す。
(……あぁ、やっぱり……か)
少年は不気味に笑い、銅貨を受け取ろうとしない。
「……お客さん、ズルはいけませんよ。……ズルは」
瞬間、五枚の銅貨のうちの三つ。それが、手から消え失せた。目の前で起こった衝撃の出来事に客の男性は目を見開いて、驚嘆していた。
「……ちゃんとした金で支払ってください。俺がまだ未熟だからって、嘘をついて騙そうとは思わないでください。金がないなら、帰っていただいて結構ですから」
少年は口調を強め、少し冷たく言い放つ。男性は恐ろしくなったのか、ポケットに入っていた本物の銅貨をすぐさま手渡す。
「……ほらぁ~、ちゃんとあるじゃないですか。これからは最初からお願いしますね」
満面の作り笑顔を浮かべた少年は嬉しそうに商品を手渡し、一目散に去っていく滑稽な男性を見届けた。
そんな様子を近くの建物の影から見つめる人物が一人。行き交う人々が明らかに訝しんでいるその人物の風貌は全身を隠す黒いローブ。視線を集めていることに気付いていないその黒ローブは熱視線を少年の元へ注いでいた。
「……ヘックション! 誰かに噂されてんのかな~?」
胡坐をかいている少年は周りをキョロキョロと窺って、再び、商売を再開した。
————魔法。それは人が焦がれ、ついに叶わなかった幻想の存在。言葉に違わず人知を超えたそれは
————精霊。これも空想上の存在。ありとあらゆるものに宿るとされるそれは、その世界には存在していた。元来、フロンティアの中心にあるとされる聖域に住まい、人類と関わるべくもなかった精霊は
では、書き出しを少しだけ。精霊暦(人が精霊と出会って経った年数)804年。魔法が普遍化した世界フロンティアで、流浪の旅をし、商売に勤しむ、黒髪細身の少年、メルク・ロッド・テイルズ。彼が歩む先には必ずと言っていいほどトラブルがつきものだった。
そんな彼が中心の聖域から真西に約300マイルに点在するこの街、四つの国が一つサン・カレッド王国で彼女と出会う時、物語の歯車は動き始める。物語はいつも突然にして、唐突な出会いから始まる。定番にして、王道。やはり、これがいい。
さぁ、これから少年の行く末を覗いてみることにしよう。
これはとある少年が導く魔法と人類の進化の物語である。
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