sex in the raw

ノータリン

誰もが振り向くスーパースター

橋川渉

突如現れたそのルーキは才能を開花させ一躍大スターへ

出演した映画はシリーズの中でもぶっちぎりの収益を叩き出し、ドラマの視聴率は瞬間では40%を超え、ミュージカルにスポーツおまけには映画監督になり多彩な才能で人々を魅了した

しかし、そんなスーパースターも世界中から注目されたのは一時のことだった。

女・女・女 叩けばホコリが落ちるような女性関係によるスキャンダルの嵐により元々人々が持っていた天才への僻みがぶつけられる場所を得たことにより今までに類のないほどのバッシングを受けることとなった。バッシングは彼が業界から身を引いてからも続くこととなった。


電気を付けているだけで物を投げられ、連日マスコミが家に押しかけ家から一歩も出ることが出来ないどころか通販もロクに受け取れない状況で溜め込んでいた大量の即席飯を食うことで鎮火するまでの時間を稼いでいるような状況だった。


彼は自宅の一室で怨み言を垂れる。「たかだか不倫したぐらいのことでなんで迷惑かけてもいねーような奴に逐一道徳を解かれないといけねーんだよ。第一結婚してるわけでもねーし不倫なんて他にもしてるやつは腐るほどいるじゃねーか!不倫よりえげつねーことしても無視される奴がうじゃうじゃいるのにどうして俺がこんなにボコボコに叩かれるんだよ!」

体と心を休めようと寝室に行く「あ?こんなんあったか?」枕元にはクマのぬいぐるみそれもかなり大型だ。「まぁ、ええわ もう寝よ」渉は体をベットに沈めた。


「お前も難儀なことなっとんなぁーたかが不倫ごときでハイエナにたかられてよぉ~」「そうなんだよ。このままじゃ落ちるどころか人間としての最低限の生活すら...」と言いかけて言葉を止める。あれ?今、自分は誰と話をしているんだ?

ベットに埋めていた顔を動かすとそこにはまるで生き物...人間のようにこっちを見ているクマのぬいぐるみがいた。

「お!やっと起きたか!さっきから生返事だったから寝てしまったものと思ったよ」

クマのぬいぐるみが俺に向かって喋った。


顔をもう一度ベットに埋める...(幻覚?幻聴?原因は?ストレス性の病気か何か?もしかしたら知らないうちに飲み物にクスリを盛られていたとかか⁉)様々な思惑が頭の中を駆け巡る。(一旦心を落ち着けよう、無だ無......)「オーイ!何をしているの?さっきこっちを見たじゃないか見て見ぬふりとはそれでもスーパースターか?...」謎の声は止まらないどころかよりその口数を増していく

「あー!うるせぇよお前!俺の幻聴の癖に心落ち着かせる邪魔してんじゃねえぞ!」我慢の限界だった。彼は手元にあるものをクマのぬいぐるみに投げつけるが「うわっ!ちょっ、タンマ!」なんて言っていてクマのぬいぐるみが止まる気配はしない

「俺がお前の過去を直してやるって言ってんだよ!そのために来たんだよ!」その言葉で渉の体が止まる「嘘じゃねーぞ俺はお前の過去を変えるために来たんだ。それにクマのぬいぐるみがベラベラ喋ってるのに対して納得できる理由にもなるだろ?」「まあ、確かにそうだが...」彼の様子からも現実?を受け止めきれていないのは誰の目にも明らかだった。「それじゃあ、お前さんの過去を溯って改竄して元通りスーパースターに戻してやろうじゃないか!」クマのぬいぐるみがそう言いながら彼の手を引く「おい、行くったってどこへ行くんだよ。外には未だに蠅がたかってるんだぞ」


クマのぬいぐるみは聞こえないのか手を引き続ける。階段を駆け上がり、二階の窓をぶち破って外にでた。


「え?」状況を理解できないまま連れられるように窓から飛び出た渉は(ああ、やっぱり疲れからの幻聴と幻視だったんだな俺は窓からの飛び降り自殺ってことになるんだろうなあ)渉は目をゆっくりと閉じた。


が、何も起きない。意を決して目を開けるとそこには見覚えのあるような無いような景色が広がっていた。「ここがお前の過去だ」クマのぬいぐるみはそう言った。

その顔は少し笑っているようにも見えた。

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