第8話 友達として
翌朝、僕は自室のベッドでお布団に包まっています。昨日の夜に起きた事、もう1人の僕がやった事、全部ハッキリと鮮明に覚えている。まるで自分がやった事のようにね……。
そして僕の身体の事までバレちゃったし、敵側の魔法少女になってる事までバレちゃった。
学校なんて行けません。
「歩美! 早く起きなさい!」
「僕は歩美じゃない……」
とりあえず反論しとくけどね。お母さんは普通に僕を女の子の名前で言ってくる。勘弁して下さい。今はそれ、僕にとってはダメージなんですから。
「全く……心忍ちゃん迎えに来てるわよ」
「……休む」
「ダメよ、あいつが何をするか分からないでしょう?」
「う~」
お布団引っ張らないで下さい、お母さん。そもそも事情が事情なんだってば。
それに、あの2人にバレたのは痛いし、魔法少女機関にも僕の事がもう広まっているはず。
Dr.Jも流石にこれは何かしてくるでしょう。
「それなら、ここで初夜を迎える?」
「…………わぁっ!!」
いつの間にか心忍がお布団に潜り込んでいました!! 至近距離に心忍の顔があってビックリしたよ!
「心忍ちゃんありがとう~」
「お母さん!!」
僕をお布団から出すための作戦だったね! 心忍を使うなんて……。
「進、休むんでしょ? 私も休む。さっ、一緒に寝よう」
あっ、違った。心忍は純粋に僕と……に、逃げないと! 女の子同士とか、アブノーマルなのは僕は勘弁です!
んっ? でも、僕は心は男だから別に問題は……いや、身体が女の子なんだってば、視覚的にアブノーマルだよ。
「くっ……離して心忍!」
そして僕のパジャマをしっかりと掴まれていました。ベッドに引きずり込まれる!!
「お母さん! 助け……あっ」
しまった……今ここで助けを求めても、返ってくる言葉は決まっている。
「それなら、学校に行く事ね」
「うぅ……」
完全に詰んだよ。しょうがない……。
「心忍、一緒に寝よっか」
「ふぇっ?! えっ……嘘、こっち取るの? そんなに学校が、大輔達と会うのが嫌なの?!」
「うん……大輔達に聞いてない? 色々と言っちゃいけない事を言っちゃったから。心忍はずっと僕を信じてくれているでしょ? 今も昔と変わらない接し方してくれている。今はそれが、僕にとっては心地良いよ」
「ふぇっ……あっ、いや、その……でも」
あれ? 心忍が顔を真っ赤にして慌てふためいていますよ。いったいどうしたの? 嬉しくて混乱しているのかな?
「あっ、うっ……でも私、襲っちゃうかも……」
「ん~別に心忍になら良いけど……」
「はぁぅっ?! あ、あぁ……もう無理ぃい!!」
「心忍?!」
ベッドから飛び降りて窓から出て行っちゃいましたよ?! なんで? いつもの僕と違う反応だったからかな?
「はぁ……まさか心忍ちゃんを撃退するなんてね……ただ、ずっと一緒だった幼なじみを甘くみない方が良いわよ~」
「へっ?」
「よぉ」
「おはよう、進。なんか、心忍が凄いスピードで逃げていったね。あとで連絡しておかないと」
えっ……お母さんの背後から、今度は大輔と花音が顔を出してきました。なんで居るの!!
とにかく、再度お布団に潜る!! 仮病です、仮病!
「……僕、インフルエンザにかかっちゃって……近付かないで」
「春先ならともかく、ポカポカ暖かいこの時期にインフルエンザになる奴がいるか」
だけど、大輔はそのまま僕の部屋に入ってきて、僕のお布団を引っ剥がしてきます。
「あ~!! ちょっと大輔!」
そしてそのまま僕の足を引っ掴むと、思い切り引っ張って、僕を部屋から引きずり出そうとしてくる。いくらなんでもこれは乱暴過ぎるよ!
「着替える、着替えるから! 離して!」
「いいや、そのまままた閉じこも……」
あれ? 大輔が静かになった。そして次の瞬間……。
「ぐっ!!」
花音の拳骨を頭に受けて、そのままうずくまっています。
花音、何したの? いくらなんでも大輔にそんなダメージを与えるなんて……あっ、尖った種を指の隙間に挟んでましたね。それは痛いと思う……。
「進、私達扉の前で待ってるから」
「あっ……うん」
そして、大輔の襟首を掴んでそのまま僕の部屋から出て行ってくれたけれど、花音の笑顔が初めて恐いと思いました。
それにしても、なんで大輔は途中で止めたんだろう? あっ、パジャマがはだけていた……なるほど。
―― ―― ――
その後、僕は2人に待って貰い、着替えと朝ごはんを手早く済ませ、家を出ようとする。
だけどその前に、出掛けていたDr.Jが戻ってきて、すれ違い様に僕にこう言ってきました。
「安心しな君の両親には何もしない。ただ、歪みに気を付けるんだ。君の覚醒が思った以上に早すぎた」
「……??」
いったい何の事なんだろう。とにかく、僕の両親には何もしないと言ったけれど、それもどこまで本当かは分からない。
とにかく今は、大輔達と一緒に行かないと。わざわざ遠回りしながらでも僕の家に寄るって事は、昨日の事で話しがあるからだ。
気が重いな……学校までの道のりを長く感じるなんて……。
「…………」
「…………」
そして2人とも無言だし。
気まずいから、せめて直ぐにでも昨日の事を聞いて欲しかったよ。家を出てからしばらく歩いても、一切喋ってこないよ。
「2人とも……僕に話しがあるんでしょ?」
焦れったいから僕から聞きましたよ。そしたら、2人とも肩が萎縮していましたね。面白いくらいビクってなってたよ。
「あっ、あ~今日は天気良いね」
「曇ってますけど……」
花音……君は話しにくい事を話すとき、先ず何かしら別の話で誤魔化してくるよね。緊張しないようにだろうけれど、失敗してるからね。
「……進、お前身体は大丈夫なのか?」
すると、やっと大輔が口を開いてそう言ってきたけれど、先ず僕の心配ですか。大輔らしいや。
「大丈夫だよ。異常はないから……」
「そうか。そんで、お前は俺達の敵になるのか?」
ハッキリと言ってきたね。確かに1番気になるだろうし、大輔は単刀直入がほとんどだから、この発言も大輔らしいよ。
「僕が2人の敵になれると思う?」
ただ、ハッキリと言っちゃうと僕もマズい。だからぼかしながら言うしか無い。昨日もそうやってぼかしたから、流石に何か気付いてよ。
「それじゃあなんで……」
「花音、1つしかないだろうが……進の両親が人質に取られてんじゃねぇのか?」
やっと辿り着いた? ただ、大輔からその言葉が出たのはビックリだったね。
だけど、僕はそれも肯定は出来ない。Dr.Jが聞いているんだ……僕が何か企んでると気付かれたら、お父さんとお母さんが……。
「学校遅刻するよ。とにかくね、僕が喜んで大輔達と戦うわけないでしょ? 昨日ので分かってくれると思ったのに」
「お前な……それなら俺達の方も……」
「分かってる。もう1人の僕、アンナの事でしょ? あれが出て来ないように、大輔達は魔法少女機関で色々と調べてくれていたんだね」
「お前……昨日の事」
「ちゃんと覚えてるよ」
そう言うと、僕は先へと歩いて行く。正直これ以上の会話は危ない。感情的になって色々と言ってしまいそうになるよ。
「進の事情は分かったわ。それなら私達も、全力で自分達のやりたいことをやるわ」
全力でって……魔法少女機関からは離れて欲しいんだけどな。それは伝わらなかった?
「あのね……あんな危ない機関で戦ってたら、その内命を落とすかも知れないんだよ。花音達に負担ばかりかけてるじゃないか」
「それなら進、あなたはなんのリスクもなく戦ってるって言うの? 怪我したり、それこそ怪人の味方をしてるからって、殺されたりするかも知れないんだよ?」
「それはそっちもでしょ? 花音達が魔法少女機関を離れてくれたら……」
「あなたは戦いを止められるの? 無理じゃないの? だから私達は戦うの。あなたが戦わずにすむようにね」
そう言ってくる花音と大輔の顔は、もう何を言ってもその意思を曲げない顔をしていました。これ以上は駄目だね。もっと何かしらの変化がなければ……。
「はぁ……もう良い、分かった。勝手にどうぞ」
折角僕が2人を何とかしようとしているのに、2人は2人で僕を助けようとしてきて……もうどうすれば良いのか分からないよ。
そんな事を考えながら、僕は2人の先を歩いて行く。でも、2人はピッタリと僕に引っ付いてきます。
「そう言えば進、あなたがその力を得た方法って何なの?」
「……それはちょっと言えません」
「なんで? 危険な事なの?」
「…………」
早歩きです早歩き。今、思い出したらいけないものを思い出しちゃった。
僕がこの力を受け取る時、確か命を失う可能性があるって言われたような……。
1番危険な事をやっていたのは僕でした。だからこの会話を早く終わらせる為に、僕は急ぎ足で学校に向かいます。
「おい、待てって! なんで逃げるんだ!」
そしてその後を大輔が追いかけてきて、花音がその後ろから必死になって着いてきています。
「何でもないです。とにかく、僕がこの力を得た方法は、バレちゃいけない事があるので話せません」
「なんだそりゃ……お前、俺達の事を心配しているみたいだけどな、1番危なそうな事になってるのはお前だぞ!」
すると、大輔が切羽詰まったようにしてそう言ってくる。
僕が1番危なそうな事になってる? そうだとしても、身体に負担がかかってるのは大輔達の方だよ。
それにしても、なんだか大輔が凄く心配してくるね。あっ、そっか。
「大輔……」
「んっ?」
そして、僕は一旦その場で立ち止まると、後ろを振り向いて大輔の元に向かう。そのあと、大輔の耳元まで顔を近付けます。
「大輔は、僕が女の子だったらタイプなんだよね? だから今、女の子になっちゃった僕が気になって、心配してくるんだよね」
「なっ、なんでお前、それ……!」
「トイレで聞いた。気を付けなよ、誰が聞いてるか分からないんだからね。バカ大輔」
「あっ……いや、あれは……!」
それだけ言うと、僕は大輔から離れて、また足早に学校に向かって行く。
「おい、待て! 進!」
そして大輔は、腕を伸ばしながら僕に向かってそう言うけれど、そこから動けなくなっていた。
そりゃ僕にバレちゃってるなんて恥ずかしいよね。どう接すれば良いか分からないよね。
でも、僕は親しい友達として、これからも大輔と接していきたいんだよ。だからその感情は、封じておいて欲しいね。
因みに、花音はそんな大輔の様子を横で見ながら、首を傾げています。
花音にこの事がバレたら……いったい僕達はどうなるんだろう? うぅ、面倒くさい事になっちゃったよ。
「あれ?」
そして、そこからしばらく歩いた先に、心忍がうずくまっていました。窓から飛び出して、ここまで走ってきたんだね。
息を切らしている所を見ると、ここで体力が尽きたみたいです。ご苦労様……。
「心忍?」
「うひゃっ! あっ、す、進……」
そんなにビックリしなくても良いのに……。
「学校行こう。あの2人はあとから来るだろうし」
「……良いの? 昨日の事、メッセージで教えて貰ったけど……話した方が……」
「……うん、話したよ。あの2人は、何としても僕を助けようとしているからね。そうなったらあの2人は止まらない。心忍も分かってるでしょ? それなら、僕は僕であの2人を止めるよ。魔法少女機関に居る危険性を探り当てて、それを突きつけてやる」
「まさか……」
流石心忍だね、直ぐに気付くなんて。だけど、これは前から心忍と計画していた事だ。
「うん。今日の夜、魔法少女機関に潜入するよ」
今なら出来きる気がする。もう1人の僕、アンナが使っていた魔法も使えそうだからね。これなら何とか潜入出来そうなんです。
「……昨日の今日よ、危険過ぎる」
「だからこそだよ。敵もまさか次の日に潜入してくるとは思わないでしょ? それに悪い事をしに行くんじゃない、調査をしに行くんだ」
「…………」
ただ僕は、ひたすら真剣な顔で心忍を見ます。もちろん心忍も、しっかりと僕の目を……と思ったけれど、途中で顔を逸らしたよ。しかも赤くなってませんか?
「くっ……私の負け。分かった、協力する」
「……えっと……」
何か勝負が始まってて、僕勝ったの? いや、というか……心忍の反応が何処かおかしいです。照れてる?
今まで何をしても何をしてきても、一切戸惑わなかった心忍が、照れてる?!
どうやら僕は、心忍にとんでもないことをしてしまったようです。
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