エアーキャットは鳴きやまない

野口マッハ剛(ごう)

カラになった心

 とにかく失恋は少なくとも目に見えるようで実はそうじゃない。日本人は目に見えないご縁と言うものを大事にしてきた。それは神社で縁結びと言うのがある。恋が成就するのも失恋するのも、全ては目に見えない力によって導き出されて来た。

 部屋は静まりかえっている。散らかったテーブルには原稿が散乱している。部屋の換気は全くしていない。カーテンは閉じたまま。時計は動かない。何より猫が嫌いだった。

 最近を思い出してみる。バイトを辞めて、失恋をして、あれだけ好きだったアイドルが結婚。もう何を信じれば良いのかわからない。

 嫌いな猫は可愛い。しかし、その可愛さの裏はきっと腹黒で人間を騙している。わかっていた。もう何もかもが嫌になった。

 空想で猫を飼っている。なぜならエサは不要、それに猫らしからぬ姿に変身させれるから。今日の猫は鳥のような姿をしていて、さっき空へ飛んでいった。鳴き声はめえめえ。まるでなんの動物かわからない。エアーキャットは変幻自在の幻なのか?

 しばらくして猫が帰って来た。今は犬のような姿になっている。なぜ捕らえた獲物の小鳥を見せてくるのだろうか。

 コンビニに行く。猫もついてくる。今は女性のような姿になっていた。まあ、僕の空想だから仕方ないね。手をつなごうとしても、左手は相変わらず空いていた。

 コンビニに入ったところでみゃあみゃあ鳴く猫。姿は僕の失恋相手である女性。なぜそんなに鳴くのか。やめてくれ、涙が出そうだ。

 雨が降ってきた。灰色の雨。そう言えば猫は僕を置いてどこに行った? さっきまでの晴天がウソのようだ。ふと、視線が右に流れた。

 僕は体に電気が走った感覚を味わった。あの女性が傘を片手に立っている。僕の声は出なかった。代わりに女性が僕にこう言った。

「また、エアーキャットが鳴きやまないの?」女性はそう言うと、傘を僕に押し付けた。

 そして、「また、猫ちゃんの話を聞かせてね」と僕に微笑みかけて外へ出ていった。

 猫はもう僕の前には姿を現さなかった。代わりに猫が好きになりそうな僕。コンビニから飛び出して女性のあとを追おうとした。けれども、姿がない。僕は灰色の雨に打たれていた。

 後日、知り合いから聞いた。もうあの女性は他界していたらしい。コンビニで再会した彼女は幻だったのか? 貰った傘を探してみる。でも、傘は跡形もなく玄関から消えていた。

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