三日目第四試合後半
平和だ。この人もきっと何か事情があって今この場にいるのだろう。可哀想に。だけどこの試合、負けなきゃならない。相手も負けたいはず、問題を解けば俺が負けられる。こういうのは苦手なんだよなぁ。やってみるしかない。前の試合よりは何倍もましだ! トラウマも残らないだろうし、思い出そうとすると目の奥が痛むなんてこともない!
とりあえず
「最初からもう一度全部言ってください!」
~~~
「一体、四人を殺した犯人は誰なのか。三人のなかに犯人はいます。当ててみてください」
そもそも、耳で聞いただけじゃすぐに問題の内容を忘れて詰む。だから、 地面に問題をメモして整理する。地面に文字をつづり、整理し、まとめていく。
「メロンとかいちごとかこの辺は無視でいいや」
こっそりと相手の顔色をうかがうが、表情に変化は見られない。徹底してるのか、それとも全く見当違いなのか。メロンとかイチゴとかの前に周りを無視すべきだったか。集中集中!
密室殺人事件……。字面だけ聞くとなんかすごそうだけど密室じゃないか、密室は関係ないのどちらだ……多分。
密室じゃない理由が考えられない。部屋に隠し通路があった、みたいなのはないから密室は無視しよう。もしも部屋に隠し通路があった場合は、それは問題が悪いい。よくよく考えてみると、問題を出したほうは答えのない問題も出せるから圧倒的に有利だな。そんなことはないと信じたい。
密室が関係ない場合、犯人は第一発見者のFとEである説が濃厚。だけど、死因が撲死なのがよくわからん。密室で撲死は無理だ。流石にAとBが自ら頭を壁にぶつけた、みたいなことはないとしてさ。
撲死なぁ。撲死、ぼ~くし~、撲死ぃ。意味がわからん。何が死因は撲死だよ藪医者が! ……医者のFが嘘をついてるのか? まあそれなら全部納得がいくし、嘘じゃない場合は考えるのめんどくさいからそれでいこう!
あ”あ”あ”ぁ実況観客うるさい! 集中させてくれよ後ちょっとなんだから!
医者が犯人の場合毒は……種類が違うのか? 即効性、遅効性?
まあいいや! 毒の種類が違ったと仮定したとして、毒をもれたのはAEGの三人。うちはAは死んだから違う。……で、Eが第一発見者だ。死体の傷もEがつけたとするなら……毒をもったのはE、Cを殴ったのはE、間違った検視の結果を教えたのはF!
「終わったあ! 終わりました!」
「解けたんですか?」
「多分……」
これで合っているはずだ! ほかの答えなんて考えていないから知らん!
「では、答えをどうぞ」
「えぇ、犯人は、EとFです! 主犯はE! 共犯はF!」
頼む! これで合っていてくれ!
歓声と実況がうるさい。
「この答えは、合っているのでしょうか!? さあ、犯人は誰でしょう!?」
実況される側になって分かった。実教がうざい。こっちは必死で解いたのに、それを見て楽しんでる。楽しめるようにしてる。メディアって恐ろしいなぁ。
「正解です。おめでとうございます」
「よかったぁ」
正解だった。答えがあってた。この瞬間、俺はこの試合の勝敗を決める権利を手に入れた。やっと、この時が来たか。この悪夢がやっと終わる。終わらせられる。
「俺の負けです」
会場が静まり返る。あのうるさかった実況も、歓声もなくなる。静かな時間が終わる前に、試合を終わらせる。
「俺は負けます。降参ではなく、勝利を辞退したということで。それでは、ありがとうございました」
無言でその場から立ち去る。気まずい。視線が自分に集まているのを感じる。突如飛んできた生卵に驚きつつ、急いで退場用のゲートをくぐった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます