出場経緯

 今日はこのなんちゃらドームとやらで大会があるらしい。

 いろいろとわからないけど、漠然と『名前も知らないこのドーム』で『何かの大会がある』ことは知ってる。最近はやることも減って来て、一日中寝てばっかりだ。たまには刺激が欲しくて、なんとなぁくここに来た。


 観客席へ行く途中、会場の入り口でふと名前を呼ばれた。


「人間の触覚さんですか?」


「え? 人違い……じゃないですすいません。はい、私がに、人間の触覚です」


 一瞬、誰だよそれと思ってしまった。いや、なんで本名で呼ばないんだよ。ハッ、個人情報の流失か!? ちょっと待った、どういうことだ?


「こちらへどうぞ」


 スタッフの無言の圧力により、別の入り口へと誘導される。そう言えばラノベで『黙っていれば美少女』ってあるけど、こういう場合はどうなんだ? このスタッフは男だけどさ。


 脳内で別のことを考え現実逃避していたら、いつの間にかフィールドにの前に来ていた。白昼夢ですかねこれは?


「それでは、ごゆっくり」


「あ、あの、これはどういうことですか?」


「それでは、ごゆっくり」


「あ、え? お手洗いはどこですか?」


「それでは、ごゆっくり」


 出来の悪いNPCかよ! 使えないスタッフだ。チェンジ! チェンジ!


「いってらっしゃいませ」


 満面の笑みを浮かべたスタッフが、俺の背中を強く押した。身体がフィールドに入ってしまう。


「うおぉい!」


 慌ててフィールだから出ようとするも、フィールドと通路の間でぶつかって先に進めない。よくわからないけど、見えない壁があった。


 あ、これダメなパターンや……。


 どうやら俺はこの大会に出場させられたらしい。もう後戻りはさせてもらえない。


「あの、観客席はどこですか?」


 フィールドの外の観客席をチラ見しながら、駄目元でスタッフに聞いてみる。


「どうぞ、ごゆっくり」


 そう来ると思ったよ!

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