片山順一・短編集

片山順一

不幸中の勇者


 ぼくは運が悪い。


「ジャン、早く起きなさい」


 わらのベッドで母さんの声を聞くと、その日が来たと思う。

 ブーツのひもを結び、革のマントを羽織るのもゆううつだ。


 寝坊した日は、必ず魔物に出会うから。


 ひと月に四回、僕は村の産物を、一日離れた街の市場に売りにいく。

 そのうち一回はどうやっても寝坊し、必ず魔物の群れと出くわす。


 四年前、十歳のときは、大ねずみの群れが一年間。


 三年前は、ゴブリンの群れ。


 二年前は、オーガの群れ。


 一年前は、トレントの群れ。


 そこからはほぼ月替わりだった。


 ガーゴイル、サイクロプス、リッチ、アークデーモン、ドラゴン、そして――。


「早く起きなさい、勇者ジャン」


 今日は魔王の群れ、か。


 枕元の剣を取り、十字を切って部屋を出る。


 世界を救えるほど強くなったのだから、ぼくはやっぱり運がいいのかも知れない。

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