第35話 夜が明けて
なんという強さ。
あらゆる武力が霞むほどの圧倒的な力。
尊大で邪悪な魔人どもが、まるで子供扱いだ。
私は凄まじい兵器を生み出してしまったのだろうか。
グレンシル地方を我が物顏で占拠していたあの男。
情けない姿で住処へと逃げていった魔人の王。
彼奴の命も間も無く吹き消える事となる。
私自らの手によって、魔人の歴史は地上から消失するのだ。
それにしても、強大な存在というのはなんとも心地よい。
地上を這いずるものを見下ろす優越感は、どこまでも甘美である。
無駄に抗う姿を見る事は愉悦そのものであり。
その者達を踏み潰す快楽は何物にも代え難かった。
『機鉱兵』をものともしない化け物相手でも、この『真機兵』の足元にも及ばなかった。
『魔緑石』を遥かに上回る魔力を封入した『神鉱石』による莫大な力のおかげだ。
この神鉱石は自然に生成される魔緑石とは違い、大地のエネルギーを集約して生み出されたものである。
これは飽くなき研究の成果であった。
人間の科学こそが至高である事を証明できたのだ。
連続で起動すると指揮系統がエラーを起こしてしまう問題はあるが、あれだけの時間が動けるなら十分だった。
次こそは奴らの命に手が届くだろう。
真機兵から降りて陣幕で休んでいると、手下が報告の為にやってきた。
こんな大戦の折でも国内の事情というのは変化するものである。
疲れた足をほぐしながら報せを聴いた。
「陛下、報告致します。先のエレナリオでの土砂災害に続き、サウスアルフでも大規模な地割れが発生した模様。付近住民は混乱を来(きた)しています」
「田舎町か、捨て置け。あっても無くても構わん辺境の地だ」
「王都ミレイアでは抵抗貴族がデモ活動を扇動しております。『頻発する災害は真機兵のせいだ、神の怒りに触れたのだ』と口々に喧伝(けんでん)されております」
「首謀者を全員捕えよ。沙汰(さた)は帰還後に直ちに執り行う」
当然、皆殺しにするつもりだ。
当主はもちろん女子供、老人に至るまで、一族全てを殺し尽くす。
あらゆる権力を握り、そして今世界最強の力を手にした私に逆らったのだ。
もはや『神』と名乗ることさえ許されるであろう、絶対者たる私に。
これから愚民どもに『教育』を施すべきであろう。
私に歯向かう事の愚かさを。
ーー翌朝。
私は真機兵に乗り込み出撃した。
兵どもは大歓声をあげており、天が裂けんばかりに響き渡っている。
そこでしっかり目に焼き付けておくがいい。
今日、魔人の歴史が幕を閉じる。
迎え撃つ敵の布陣は昨日と大差ない。
入り口を数十人が塞ぎ、2人がかりで突撃を仕掛けてくる。
メイドのような女が1人、それと魔人王。
昨日のイノシシのような男は死んだのか?
たったひと撫(な)でで落命するとは、ひ弱な生物というのは哀れだな。
それから私は最後の戦いを仕掛けた。
『史上最も偉大な王』として君臨する未来を思い描きながら。
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オレはイリアとともに出撃した。
リョーガも参加したがったが、傷付いた体であの攻撃を捌ききることは難しいだろう。
歩兵への睨(にら)みを効かせる為にも、町に残ってもらった。
「いいか、イリア。お前が倒す必要はない。出来る限り引きつけてくれ」
「承知致しました」
「時間さえ稼いでくれればいい。後はオレが何とかする」
「陛下、ご命令であれば死も恐れません。ですが相手はリョーガ様をものともしない怪物にございます」
「女のお前を死地に連れて行くことは抵抗があるが、他に任せられるヤツが居ないんだ」
「子細理解しております。ですので奮起の為にも、褒賞(ほうしょう)をたまわりたく」
つまりは『何かくれ』って事だ。
こいつ、状況分かってんのかよ。
全滅するかどうかって瀬戸際なんだぞ?
それでも褒美をやるだけで頑張って貰えるなら、今は良いのかもしれない。
あれだけの力を目の当たりにして、心が挫(くじ)けるほうがよっぽど悪い。
「わかったよ、作戦成功したら何でも望みを言えって」
「承知致しました……フフ」
今の返し怖い。
最初の返事と変わらないトーンなのに寒気がしたぞ。
『何でも』ってのは流石に言いすぎたか。
後で撤回してもいいかな?
「鋼鉄の兵! 前方より1体が接近中!」
「さて呼び出しだ、行くぞ」
「ハイ、ただ今。……ウフフフ」
いつもより柔和さを増したメイドを引き連れて、鉄の化け物の元へ向かった。
待ち構えるのは鉄塊の巨兵だ。
表情なんてわからないが、きっと上機嫌なんだろう。
だが快進撃もここまでだ。
その軽率さを後悔させてやる。
オレは腰の麻袋に触れ、『手品のタネ』に指を這わせたのだった。
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