第33話  6体目

東の丘に人間の軍が展開している。

300かそこらの歩兵と疎(まば)らな騎兵と、ここまでは前回と大差ない陣容だ。

大きく違うのは、ゆっくりと一体だけで近寄ってくるコイツだろう。


機鉱兵。


今までの個体よりも一回りくらい小さいだろうか。

より人型に近づいたようなフォームのためか、動きも比較的滑らかだ。

どたらかと言うとゴツゴツしているタイプの方が強そうに見える。

それなのに何故だろう、さっきから冷や汗が止まらない。

非戦闘員はオレの家に避難させたが、遠くへ離脱させる必要があるかもしれない。



「あれは……六体目の鋼鉄の兵! とうとうコイツが動きおったか!」

「なんだよドンガ、知ってんのか?」

「前回のガラクタなど比較にならん兵器じゃぞ。ここは全力で戦って……いや、逃げるべきじゃ!」

「逃げるったって、アシュレリタを放棄なんかできねぇよ」

「バカモン、命と建物どっちが大事じゃ!」

「タクミ、敵が立ち止まったわ」



ちょうどこちらと敵方の中間点で機鉱兵は立ち止まった。

すると足を肩幅分に開いて腰を落とし、両手を組んで前に突きだした。

その手に魔力が集まり始める。



「もう間に合わん! 攻撃を防ぐんじゃ!」

「みんな、手を貸して! マジックシールド!」



レイラが魔法防御を全面に展開した。

薄く白がかった壁のようなものが眼前に現れた。


「急いで、私一人じゃ破られちゃう!」

「力を貸せったってどうすりゃいいんだよ?」

「魔法を放つ要領で魔力を手に集めて、魔力壁に向かって両手を突きだして! 早く!」



ここは魔法の専門家の言う通りにしよう。

みんな要領を得ない表情のまま、言葉通りに両手を前に出した。

それに反応したのか、壁の色味が白さを増した。

どうやら成功した、らしい。



「来るわよ、みんな気を付けて!」



悲痛な叫びを聞き終わる前に光の波動がオレたちを襲った。

圧倒的な衝撃と圧迫感に体がのけ反りそうになる。

いつ終わるとも知らない衝撃を一心不乱に捌(さば)き続けた。


一秒が随分と長く感じる。

まだか、まだ途切れないのか。

膝を屈しそうになる心を押し止めつつ、ひたすら魔力を送り込んだ。


どれだけの時間が過ぎたかわからないが、攻撃が止まった。

目の前には平然と機鉱兵が立っている。

あれだけの力を放っても何ら問題がないらしい。



「みんなは! 町は!?」

「ハイ、大丈夫です。遠くがメチャクチャですけど」



リョーガの指摘の通り、町そのものは難を逃れていた。

みんなが隠れてる家も無事だ。

そのかわり、町の郊外は酷いものだった。

草原も、木々も、丘陵も何もかもが消滅していた。

焼けて露出した地表と、不自然に出来た溝があるのみ。

こんな攻撃が直撃でもしたら、オレでも耐えられるかどうか……。



「第二波が来るわ! みんな備えて!」

「なんじゃと?! 余りにも早すぎる!」

「こんの野郎……調子にのるんじゃねぇ!」



オレは最前列に飛び出して機鉱兵を狙った。

これ以上好き勝手させるわけにはいかない。

いきなりフルパワーで決めさせてもらう。



「穿(うが)て、炎龍!」



これまでとは違い、三匹の龍が絡み合ったかのような炎が駆けていった。

猛然と突き進む炎は避ける暇さえ与えようとしない。

直撃だ。


そう思ったのも束の間、機鉱兵からは光の波動が発せられていた。

真っ正面からぶつかり合う光と炎。

眩しく輝きながら周囲に衝撃を巻き起こした。

吹き荒れた風に家がきしみ、街路樹が大きくしなる。

みんなも飛ばされそうになるが、身を屈めることで耐えていた。



ーー敵はどうなった?



目を細めながら確認する。

やはりそいつは立っていた。

微動だにせず、同じ場所で、無傷のまま。


まさか、オレの炎龍が効かないだなんて……。


ショックを隠せないが、そんな事は後回しだ。

敵がまた攻撃を放つモーションに入ったからだ。



「鋼鉄の兵よ、いったい何があったというのじゃ?! あの時よりも遥かに強力になっておるではないか!」

「ジジイ、泣き言は後だ。リョーガ、接近戦を仕掛けるから付いてこい。レイラたちは町の防衛だ、流れ弾にやられないよう気を付けろ」

「ダメ、あんな化け物相手に無茶よ!」

「遠距離戦の方が不利なんだ、こっちから打って出るしかないんだ。いくぞ!」

「ハイ、おっかないですが……頑張ります!」



リョーガと二人並んで飛び出したが、なんだか体の動きが鈍い。

オレだけかとも思ったが、リョーガも似たようなものらしく、驚いたような顔をしている。

この短い戦いの間に大きく体力が削られてしまったらしい。

まだ相手の実力の底すら見えてないというのに。



「オレは右から攻める、お前は左側から行け!」

「ハイ、わかりましたーっ!」



戦略も勝つ見込みもない、単純な挟み撃ちだ。

それにどれだけの効果があるかは分からない。

それでも今は、少しでも勝率を上げる努力をするしかなかった。

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