第31話 お気に入りの枕
あらゆる物事が私の思い通りに動いた。
政務官も、兵士も、国民どもに至るまで皆が平伏するのだ。
この世で自在にならないものは何一つないとすら思える。
……魔人ども以外は。
あの者たちさえ居なくなれば、世界に逆らう存在は居なくなる。
私を偉大な王と崇める者で溢れかえるだろう。
一刻も早く、不遜(ふそん)で忌々しい悪魔どもを打ち果たさねば。
それが絶対者の義務である。
目的を果たすには『真機兵(しんきへい)』の存在が不可欠であり、それを動かすには『神鉱石(しんこうせき)』が必要となる。
神鉱石を生み出すには、大地の持つ膨大な魔力をかき集めて蓄積しなくてはならない。
一朝一夕にできる物では無いと知りつつも、待ちわびている私には我慢が難しかった。
「例の物はまだなのか?」
「申し訳ありません。大地の力が弱まっているせいか、思うように集約できておりません」
「急がせろ。不足分は兵士どもの魔力を充てるのだ。死人がいくら出ても構わん」
「ハッ! そのように通達致します」
前回の神鉱石の作成時には、いくつかの災厄が国を襲った。
地割れが起き、作物は大凶作となり、いくつもの川が枯れたようだ。
年寄りどもは「神の怒りに触れた」と騒いでいたが、何とも馬鹿げている。
『神』の存在を信じている者は老いぼれくらいだろう。
偶然に偶然が重なっただけであり、神鉱石と天災の因果関係は証明されていない。
科学だ、科学こそが全てなのだ。
この世界の物事は全て数式で成り立っている。
目に映らないものを崇める神秘主義など、時代錯誤(じだいさくご)も大概にするべきだ。
窓の外に目線を移すと、沈みゆく太陽が見えた。
この方角におぞましい魔人どもの巣がある。
きっとあの者どもも、同じ空を見ている事だろう。
それもいずれ見納めになる。
魔人王よ、枕を高くして寝られるのも今のうちだ。
せいぜい余生を楽しんでおく事だ。
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眠い。
さっきお風呂に入って、ご飯もいっぱい食べた。
だから今すっごい眠い。
寝たい。
でもこいつらのせいで、散々騒ぐせいで寝られない。
何をモメているのかって?
そりゃこれのせいだよ。
『第1回 誰の膝枕が至高か! この際ハッキリさせよう選手権』だ。
クソが漏れる程どうでもいい。
つうか外でやれよ、家の中で騒ぐなっつの。
きっかけは些細(ささい)な話だったと思う。
だれの足がキレイだの、肌が白いだのそんな話題が持ち上がってた気がする。
それが盛り上がり過ぎたんだろう、このザマだ。
寝入ろうとするオレを無理やり現実世界に押しとどめ、足の品評会を開く事を強制するアホ4人。
そもそも一番を決めて誰が得するんだって話だが。
ーー足を愛でる際には体毛の流れに逆らわない事が重要だ。
『ムダ毛の処理をしていたらわからないじゃないか』
そんな反論が聞こえる事もしばしばだが、それは見識が浅すぎる。
貴方の両目はなんの為にあるのか。
毛穴の向きを知る事で、本来存在していた毛の向きを知るなぞ造作も無い事なのだ。
目を皿のように見開き、狂おしいほど愛する足を目に焼き付け……。
るっせぇぞオイ!
マジで性癖の話しか出てこねえな?
魔人王の記憶とやらを消しちまうぞ。
ベッドに座るオレの前に4人が一列に並び、ご自慢の生足をオレに見せつけている。
オレは本当に眠いんだけど、配慮してくんないの?
「私はね、伊達に普段から足出してないわよ? 見られる事で意識的にケアしようと思う訳、だから私が一番よ」
これはレイラの言。
そっすか、どうでもいいです。
「タクミ様は私の膝がお気に入りなんです。すごいリラックスしてましたもん。だから私の膝枕が一番です!」
今のはアイリス。
そうだったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。
つうか覚えて無い。
「私の足って毛が薄いんですよねぇ、処理もいらないくらい。だから無駄にカミソリも当てないんで肌を傷つけないんですよー? なので私が一番ですー」
あーそうですか。
キレイだと思いますよ、すごいすごいシスティアすごいっすー。
だからもう終わりにしてください。
「差し出がましいようですが、私の足が一番なのは間違いありません。なので陛下、ちょっとこれから発散しに行きませんか?」
何を発散すんだよこの野郎。
シレッと意味深発言するんじゃねえよ。
つうか足の自慢をどこやった?
「タクミ、もちろん私が一番でしょ? そうでしょ?」
「お願いします、私を選んでください! あと頭なでてください!」
「システィアです、システィアに清き一票をおねがいしますー」
「陛下、裏手に丁度良い茂みがあります」
「うるっせー! オレは眠いんだよ!」
結局それからも騒ぎが落ち着く事はなかった。
眠いなら幸いと、代わる代わる4種の膝枕を受ける事になってしまった。
眠りたい人間にとってこれは苦痛でしかない。
意識が無くなりかける頃に次の膝に移らされるのだ。
人の頭をボールみたいにポンポン回しやがって。
オレの安眠を、平穏な夜を返せ。
心の声がこいつらに届く事は決して無かった。
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