第18話 再建の第一歩
魔人の街アシュレリターー。
かつては1000人もの魔人が住む一大拠点にして、彼らの王の住まう地であったとか。
海や大地の恵みに感謝し、よく耕し大いに育み、激化する人間との軋轢を数百年耐え続けた愛すべき聖地。
城壁は高く、兵は強く、王は公平であり、下々の者は心を安らげて暮らしていた。
かといって前線基地のような武張ったところのない、木々や花々はもちろん、芸術や装飾も重視されていた美しき都。
爺さんが言うには、かつてはそんな場所だったらしい。
今はというと、ガレキだらけの人っ子一人住んでない焼け野原。
城壁どころか視界を遮るものの一切ない平坦な大地。
ここに住まうものと言えば、目の前にいるケツジジイくらいなもの。
まばらに生えている雑草は、草花と呼ぶにはかなり無理がある。
かつての華やかさが皮肉に思えるくらい、現状は散々だった。
「それでお前さん方、ひょっとしてここに腰を据えるつもりかね?」
「そうするつもりだ。その為にリョーガに使いを頼んだし」
「何を企んでいるかは知らんがの。もしここに住むと言うのならワシが家を用意するが」
「そんな事できんの? マジで頼むわ」
「その代わり組み立てだけ。建材の用意となると専門外じゃ」
「建材ってことは木とか石とかか?」
そう言ってドンガは地面に描き始めた。
石はこんな形とサイズ、木はこんな形といった具合に。
つまりはオレたちで前準備をしなきゃいけないと、めんどくさっ。
話し合った結果、オレが原木や岩を集める。
レイラが魔法で裁断する。
アイリスはその間に食料確保。
ジジイはガレキの下敷きになった地下室に用があるらしい。
だから上半身だけ埋まってたのか。
実際に作業して思った、オレは安請け合いしてしまったと。
原木抱えるのも岩を持ち運ぶのもしんどい。
肩やら腰やらが悲鳴をあげている。
これを台車無しで運ぶなんて文明人のすることじゃない。
「あーーしんどい、死ぬ。マジで死んじゃうこれ」
「シレッと両手に大木と岩石を持ってるけど、どっちも余裕で人を殺せるサイズじゃない?」
「そんな考察はどうでもいい。おらよ、これで建材作れ」
「はい、お疲れ様。まだ全然足りてないから、あと2往復くらいしてきたら?」
鬼かこの野郎!
他人事だと思って滑らかに頼みやがって。
この仕事片付いたらオレは何もしねえからなクソが。
レイラはというと、風魔法を巧みに操って枝を落としたりしている。
いいなそれ、オレもそっちやりたかったぞ。
うっかりリョーガを手放したことが心から悔やまれた。
「ひぃ、ひぃ、しんじゃう。オレもうムリ」
「あ、そこ置いといてねー。向こうでアイリスちゃんがご飯作ってくれてるわよ」
「オレ、めし、食う。頭から、ガブリ」
「そうね、トンボだもんね。好きなように食べたらいいじゃない」
あーもう無理。
今日は意地でも働かないからな。
それこそ軍隊が押し寄せてきても無視して寝るからな。
アイリスの元へ向かうと、香ばしい匂いが漂ってくる。
やっと体を休められるかと思うと全身の力が抜けてきた。
「タクミ様! 大丈夫ですか、お顔が真っ青です!」
「アイリスよ、オレはもうダメだ。もう指一本動かしたくない」
「承知しました。お食事なら私におまかせください。どうぞこちらへ」
アイリスはそう言うと、オレの分のメシを片手にもち、地面に座り込んだ。
空いた片手で自分の足を叩いているが、膝枕って事か?
何その変態貴族っぽい食事風景。
ーーなぜ膝をたたんでしまうのか、理解に苦しむ。
それでは折角の足の柔らかさが台無しではないかーー
うっせ! うっせ!
出てくんな変態王!
考えるのも面倒になったオレは言葉に甘えて横になった。
色々問題あるだろうが、メチャクチャ楽だこれ。
オレは口を開けて咀嚼するだけ。
それでエネルギーの補給ができてしまう。
両手はおろか、体を起こすことすらなく食事を摂取できる、究極の自堕落。
デメリットがあるとすれば、少女にこんな事させてるという、オレの外聞がピンチってことだ。
まぁそれくらいどうなってもいいがな。
「タクミ様、お食事はお終いです。満足いただけましたか?」
「うん、満足。眠い」
「ではどうぞ、ごゆっくり」
アイリスはそのまま寝させてくれた。
聖母かお前は。
遮るもののない原野に、フワリとそよ風が通り抜けた。
カサカサとなる草の音が妙に心地よい。
生えっぱなしの雑草も悪くないと思いつつ、眠りに落ちていった。
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