第17話 男はケツで語る
とうとうオレたちは着いてしまった。
グレンシルにある、アイリスの故郷へ。
広い意味ではオレもそうなんだろうが、あまり実感は沸いていない。
だから感慨深さも何もないのだが。
アイリスはやはり違った。
「酷いわね、ただのガレキの山じゃない」
「執拗というか徹底的というか。よほど人間と魔人は仲が悪いんだな」
そこには建物の跡も何もない、焼け野原だった。
かろうじて残った石畳に育ち始めた雑草が、より一層廃墟であることを能弁に語る。
ここまで来れば同族の数人も居るだろうと思っていたが、すっかり当てが外れたな。
慰めにもならんだろうが、うつむいているアイリスの肩をそっと抱きしめた。
「それでどうするの? ここでじっとしていても仕方ないと思うけど」
「どうするって言われてもな。他に行く当ても無けりゃここでの用事も無い」
「ハイ、本当に何もありませんからね、途方に暮れてしまいますね」
『……誰かーー。誰かおらんかー……』
なんだ今の声。
もしかして亡都に彷徨う幽霊とか?
昼間なのにそういうのって出るのかよ。
『おおーーい、助けてくれーー!』
「あっちよ、誰かの声がする!」
「マジかよ、生き残りか?」
声の主を探しに行くと、確かにそれは居た。
下半身だけで地面に現れた何かが。
魔人の国にはケツで喋る生き物がいるのか?
「そこに誰かいるんじゃろう? 助けてくれい!」
「わかったわ。リョーガ手伝って」
「ハイ、わかりました」
「助けるってなんだよ?」
二人が足の先を引っ張ると、地面からおっさんの上半身が飛び出してきた。
単純に上半身がガレキに埋まってただけか。
そうだよな、ケツで喋る生き物なんかいるわけねえよな。
「いやぁ、助かった。このままおっ死んじまうのかと冷や汗をかいたわ」
「ドンガ爺? ドンガ爺ですよね!」
「おお、アイリス、無事だったか! さらわれたと聞いて心配しとったぞ!」
「生きててくれたんですね、良かった! みんな死んじゃったかなって」
「大丈夫じゃ、魔人はしぶといんじゃよ。ここにはおらんが、あちこちに隠れ住んどるよ」
このドンガという爺さんも魔族なのか。
頭が禿げ上がってて赤い髪かわかんないけど。
あ、眉毛がちょっとそれっぽいな。
それからオレたちはこれまでの話をした。
主にお喋り好きのレイラが、そして補足するようにアイリスが。
鷹揚にうなずいてた爺さんがオレに鋭い目線を投げつけた。
「お前さんが新しい魔人王様かね。見た所人間のようじゃが、この子が嘘をついてるとも思えん」
「嘘か本当かは、いずれわかるだろ。嘘だったら力を持ってないホラ吹きって事なんだし」
「違い無いの。で、これからどうするつもりじゃ?」
「うーん、それなんだけどな。ここにもう一度街を作るのは無理か?」
アイリスや魔人を助け、オレものんびり過ごす為の最良の案だ。
ここでそれなりの街を作ってしまえば、魔人たちもにっこり、オレもにっこりできる。
ましてやオレは王様らしいし、あらゆる面倒事を手下に投げることができる。
完璧なライフプランだ。
「確かにここに拠点を作れば、散らばった魔人たちも戻ってくるじゃろうが。同時に人間の軍隊も相手にせねばならん」
「あーそんなことか簡単簡単」
それじゃあせっかくだから派手に行くか、始まりの合図って感じでな。
紙にサラサラっとこう、檄文をだな。
よし完成、あとは宣伝を残すだけだ。
「リョーガ。お前はひとっ走りコモゾークの商人システィアにこれを渡してきてくれ」
「ハイ、お渡しするだけで良いのですか?」
「そうだ。渡すだけで良い。アイツならそれで巧くやってくれる」
「コモゾークってひとっ走りで行ける距離だっけ?」
知らん。
つうかコイツならやれるだろ。
まぁ早かろうが遅かろうが構わんがな。
さてと、人間様の軍をお迎えする準備でも始めますかね。
オレはこれから起きるだろう大イベントに心を震わせたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます