第11話 領主館ニ急行セヨ
翌朝。
目を醒ますと異変に気がついた。
レイラがどこにも見当たらなかった。
最後の交代をするまでは間違いなく居たのだが、アイツに見張りを代わってから姿を見ていない。
また水浴びにでも出かけたと思い待っているのだが、一向に戻る気配が無い。
何かトラブルにでも巻き込まれたんだろうか、クソ面倒だが探してみよう。
まずはアイリスに行方を聞いてみた。
「なぁ、レイラ知らないか?」
「あのニンゲンなら明け方に男たちに連れていかれましたけど」
「え、そういう事は早く言ってくれないと困るんだが」
「すみません、今後気をつけます。具体的に何が困りますか?」
「そりゃお前……、何だろうな?」
あれ、困らないんじゃないか?
つい反射で探そうとしたが、別にオレらは困らないんだし、問題無くないか?
「すまんアイリス。別に困らねえわ」
「そうですか、なら良かったです。てっきりご迷惑をおかけしたかと」
「問題無いから忘れてくれ。じゃあそろそろ出発するか」
「はい、今日もがんばります!」
さぁて、スッキリした青空だし、サクサク行くかねー。
……何だアレ?
立ち上がって気づいたが、木の幹に文字が彫られていた。
『レイラ嬢は我らが保護をした。魔人の娘を連れてロックレアの領主館まで来い』
という文面が、ちょうど目線の高さに彫られている。
残念だったな、その細かい気遣いも完全に空振りだ。
それから荷造りをしている時に、フワリと女神のギフトが飛んできた。
そういえば今日はまだだったな。
えっと『読心術Ⅳ →対話時のみ相手の思考を読み切ることが出来る(戦闘時は不可)』というものが送られてきた。
正直すっげぇ欲しい!
でもひとまずは戦闘用のスキルを保持しておきたいから、今日もスルー。
だが今回はこれで終わらない。
スキル状況について確認しなくては。
オレは例によってガリガリと大きな文字を地面に書いていく。
不思議に思ったらしいアイリスが話しかけてきた。
「タクミ様、急にどうされました?」
「これはだな。えー、日課の健康法だ。すぐ終わるから待っていてくれ」
「まぁ! それだけお強いのに、健康法までも試されているんですね。素晴らしい事だと思います!」
なんか妙に反響がでかいが、まあいいか。
『神と対話してます』なんて説明をするほうが100倍面倒だ。
気を取り直して、女神へのメッセージを書き記していく。
ーーこの前の うはうはハーレムって機能してんの?
いくらか間が空いてフワリフワリ。
『してないよ、アンタに断られたその日に破棄した。つうかそれは、ナチュラルにモテて困るぅーっていう自慢? 焼き殺すよ?』
うわ、すげえな。
文字の情報しかないはずなのに、感情がドゥワッとダダ漏れしてきた。
しかし目星が外れたな、絶対にスキルの差し替えがあったと思ったんだが。
そうすると、この子の暴走に説明がつかないな。
『つうかレイラちゃん、さらわれてんじゃん。早く助けに行きなよ』
ーーいや、別にいいじゃん。困らないし。
『……あんたグレンシルまでの道わかんの? まだまだ遠いんだよ?』
あ、そういやそうだ。
ここまで全部レイラの道案内。
アイツは道順を知ってるみたいだった。
今後道に迷うのと、今助けに行くの。
どっちが面倒か……。
「しかたねぇな。マジで面倒臭えが助けに行くか」
「そうですか。タクミ様を煩わせるなんて、あのニンゲンはあとでケツビンタですね」
黒幕のこと考えると、アイツを助けに行く必要はなさそうなんだがな。
『レイラ嬢』だの『領主館』だの書いてあったし、それほぼ答えじゃん。
こうしてオレたちは呼び出しに応じて、領主館へ寄り道をせずに向かった。
道すがら、野良猫と戯れつつ。
立ち止まらなかったとは言ってない。
その猫は白地に黒ブチの若い子で、お腹が空いているようだった。
足元でしきりにミーミー鳴いている。
手元にはナッツしかないんだけどいいかな?
「タクミ様、猫ちゃんにこのトンボをあげましょう」
「お、まだ持ってたのか。いいじゃないか」
「えっへ、えっへへ! コレお手柄ですか?」
「お、おう。そうだな」
右手で猫に食べさせて、左手でアイリスを撫でてやる。
なんだこの絵ヅラ?
しばらく猫と遊んで、アイリスなんか頬擦りまでしてから、別れを惜しんだ。
すまんな、縁があったらまた会おう。
それからオレたちは約束の地へ向かった。
何が待ち受けているかわからない、気を引き締めて行こう。
「あ、タクミ様。プイプイ草が繁ってますよ」
「ん、なんだそれ?」
「葉の部分を口に当てて吹くと変な音が鳴るんです」
「へぇ、どんな感じだ?」
アイリスが上手にプィーイッと鳴らす。
オレも真似をしてみたが、プーっとなってしまう。
おかしいな、ブーっ! ブゥーっ!
アイリスのような可愛らしい音は一向に鳴らない。
「口です。上唇をこう前に出す感じで、下唇を歯からほんの少し離してみてください」
『ブーぴたぴた。ブゥーぴたぴたぴた』
「それだと離しすぎですね、もうちょっと近いです」
「フスーっ! いやこれ難しいぞ?」
「あはは、慣れちゃえば簡単なんですけどね」
ーーしばらくして。
「プィーイっ! プゥープィプィ!」
「わぁー、すごいですタクミ様! とってもお上手ですよ!」
「プップップー、プィップゥー」
「こんなにバリエーション豊富な音聞いたことないです、タクミ様は創造力もお持ちなんですね」
「んー、ちっさい頃葉っぱで遊んでたから……とかじゃないか?」
ほぼ覚えてねぇけどな。
霞んでモヤがかった、うっすい記憶だけども。
「さて、そろそろ行くか!」
「はい、参りましょう!」
「……どこに?」
「……どこでしたっけ?」
「んー、小腹が減ったな」
「あ、それならご飯探してきますよー」
「たのむ、他の準備はやっておくから」
こうしてオレたちはトンボやらクルミやらを美味しくいただいた。
それからは森で見つけた寝床で横になり、大地の匂いを堪能してから眠りについた。
レイラの事を思い出すのは、翌日の女神との対話まで待つこととなる。
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