第9話 この少女馴染みすぎ
オレは一身上の都合から、少女を暴漢どもから助けたのだが。
じゃあ、気をつけてねーと送り出そうとしたら、またあの頭痛だ。ふざけんなよ。
ひょっとしてこの子の安全を確保するまで解放されないのか? だとしたら、とんでもないことになっちまったな。
オレはまだ困惑顔の少女に今後の話を聞いた。
「えっとお嬢ちゃん……つうか、名前くらい聞いていいか? オレはタクミって言うんだが」
「あ、すみませんでした! 私はアイリスって言います。見ての通り魔人の子供です」
「私はレイラだから、よろしくね」
「そんで、アイリス。お前を安全な場所に届けたいんだが、どうすればいいと思う?」
「ここから南西に行ったところに私の故郷があるんですが、そこに行けばもしかしたら」
南西の故郷ねぇ。もうちょっと情報が無いとどうしようもないな。
言ってみれば大陸の4分の1が該当エリアって事になりかねん。
「それって、グレンシル地方じゃない? 去年くらいに魔人の拠点が破壊されたばかりって聞いたけど」
「それは有力情報かもな。アイリス、どうだ?」
「確かに私の故郷はしばらく前に人間に襲われて……。そこは魔人族の最後の拠点だと聞いてました」
「じゃあきっと合ってるわ。今はもう無いけど、長らくグレンシルの沿岸部を制してたらしいし」
ふむ、じゃあその故郷に行けばいいのか?
元拠点だったなら、周囲に同族の大人もいるかもしれない。場合によってはそいつらに預けてしまおう。そうすればきっと丸く収まるだろう。
「じゃあアイリス、不本意だがお前をその場所に送り届けてやる。ほんと不本意だが」
「そんな、タクミ様。助けていただいただけでなく、その後のお世話まで。どのようにこの御恩をお返しすればいいか!」
「まぁ、私たちは暇だしね? そんなに気にしなくてもいいわよ」
レイラがアイリスの頭を撫でながら言った。コイツなりの気遣いなんだろうか?
しかしこうしてみると、何となく仲の良い姉妹みたいに……。
「気安く触らないでください、ニンゲンの女。私はタクミ様にお話ししているのであって、あなたにではありません」
見えなかった。
オレとレイラとの対応に随分な温度差があるな。オレ一人で悪漢から助けたからっつう理由じゃ無いみたいだが。
「やっぱり人間は嫌いか? オレも人間なんだがな」
「確かにニンゲンは苦手ですが……、タクミ様は少し違います。確かに見た目はニンゲンなんですが」
「なんだそれ。ひょっとして強いからとか?」
「そんな理由じゃないと思いますが。すみません、うまく言葉にできません」
なんだか良くわからんな。まあ、コントロールはできそうだから連れ歩けるか。
これでオレまで嫌われてたら送り返す事も難しいからな。
「つうことだ、レイラ。お前はあんまちょっかい出すなよ」
「……別にいいけどさ。なんか納得いかないなー」
「家に返すまでの辛抱だ、我慢しろ」
ちなみに歩いて向かうと2ヶ月くらいかかるとか。安請け合いするもんじゃないな。まぁオレに拒否権は無いわけだが。
しばらく歩いていると、アイリスも少しずつ心を開き始めた。
自分の身の上話やら、故郷の話やら、捕まった時の話を断片的に語ってくれる。
警戒されて無言のままよりはずっとマシだな。
そうしているとニンゲンの女、つうかレイラが何かぼやき始めた。腹が減ったらしい。
手持ちの木の実も全部食っちまったしな、どうしたもんか。
「タクミ様、お食事をご所望ですか? それでは少しお待ちいただけますか」
「お、おう。待つくらい構わんが」
腹減ったと騒いでるのはオレじゃないしな。待つくらいどうってことない。
しばらくして森に消えたアイリスが戻ってきた。意外と早かったな。
彼女の手には数匹の野ウサギが握られていた。え、この短時間でそんな捕まえたの?
「お待たせしました。思いの外上手くいきました」
「そうか、それは助かる。ありがとな」
「ええ、こんなにも大猟です」
「お、そうだな」
「すっごく上手にできました」
「う、うん?」
なんか期待するような笑顔でオレを見ているな。頭を突き出しながら上目づかいで。これは褒めてやればいいのか?
「ええと、いい子いい子?」
「わぁ! ありがとうございますご褒美です! あぁ、たまんねぇです」
オレがひとしきり頭を撫でてやると、アイリスはトロォンって擬音が聞こえそうなくらい恍惚とした表情になった。
キャラ崩壊早くない?
真面目系だと思ってたんだが、それは早合点だったかもしれない。
こんなやり取りもどこかで女神は見ているんだろう。
そう思うとウンザリした気分一色に塗りつぶされてしまった。
その晩のご飯は肉が食えるってことで、レイラのテンションがヤバかった。
やっとまともな食事にありつける! なんて叫んでたな。
失礼な、クルミやナッツに謝りなさい。
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