第8話  健やかさんになる為に

 森の草むらから赤毛の少女が突然飛び出してきたのだが、それを見たレイラが悲鳴をあげて飛びすさった。



「ま、魔人!? なんでこんな所に!」

「な、ここにも人間がっ!」

「レイラ、この子供が魔人なのか?」

「この髪見ればわかるじゃない、どう見てもそうでしょ!」



 へー、随分目を引くと思ったら種族のシンボルだったか。確かに見てきた中でこんな頭したヤツは居なかったな。

 少女はオレたちと一定の距離を取りながら威嚇している。警戒度マックスって感じだ。キバを剥いてはいるが全然怖くない。子猫にシャーって言われたときと同じ気分だな。

 にらみ合いを続けていると、同じ場所から屈強な男達が現れた。そいつらは少女の髪を乱暴に掴んだ。



「このガキ、もう逃がさねえぞ! 手間かけさせんじゃねえ!」

「街の目前で逃げられるなんて、危なかったな。冷や汗かいちまったよ」

「アンタらコイツの足止めしてくれたのか? ありがとよ」



 男達は少女を引きずるようにして立ち去ろうとした。少女は抵抗するが、体格差のせいで逃げることができない。


 オレはその連中に何もせずに見送って……。 

 見送ろうとして……。


 ズキリ。


オレの頭に痛みが走った。

昨日とは比べものにならないくらい、頭の芯から痛んだ。幻聴か空耳のような言葉とともに。


ーー・・・から、・・・を頼・・・。


 一体なんだってんだ、昨日も街中で急に頭痛がしたし。それにこの声の主は誰なんだ? わるふざけにしちゃタチが悪すぎるぞ!



「離して! 離してぇ!」

「うるせぇ! 害獣のくせに人間様に逆らうんじゃねえ!」



 ズキリ、ズキリ、ズキリ!


 頭痛はひどくなる一方で、頭のなかで割れ鐘を叩かれているようだ。あまりの痛さに手が汗ばんでいる。



ーー・・・から、魔・・・を頼んだぞ。



 あーー! マジ痛ぇえ!

 何だよこれ吐き気までしてきたぞ。この幻聴、オレの神経をしっかり逆撫でしやがる。

 もう勘弁してくれ、やめろ、やめろ!



「やめろぉーー!」



 頭痛がピタリ。あー……良かったー。頭痛持ちのヤツってこんなに辛いのかよ。いやほんと大変だな。

 少女と男達がピタリ。ん、どったの? オレのこと凝視しちゃって。

 レイラもピタリ。なんだお前ら、それ流行ってんの?  



「てめぇ、このガキを横取りする気か? そうはさせねえぞ!」

「あん? 横取りっつうか、自分の体調の都合のせいで」

「わけわかんねえ事言ってんじゃねえ。ブッ殺してやる!」



 まぁお下品、野蛮人。ブッ殺すですって。沸点も低すぎるし、煽り耐性なさそう。

 オレに向かってシャムシールだのブロードソードだの、不揃いな武器の刃が迫ってくる。これ対処しなきゃダメだよな、クソめんどくせぇ。

 しょうがないから突き出されら刃物をトントントントン! まな板の上の食材のように、突きつけられた刃を輪切りにしてやった。

 驚いて固まった間抜けヅラのど頭をターン、ターン、ターーン! リズミカルに、そして丁寧に蹴り飛ばした。

 3人は錐揉みしながら吹っ飛んで、数本の木をなぎ倒して、1本の大木にぶち当たってようやく止まった。

 正確に蹴り飛ばしたおかげか、綺麗に1列に並んでノビている。お行儀良し。


 そして戦闘終了。

 状況の変化についていけず、呆然としていた少女がおずおずと話しかけてきた。



「あ、あの……助けてくれるんですか?」

「ああ、そうしないといけないらしい。オレの健やかさの為に助けた」

「??? あ、ありがとうございます」



 釈然としないながらもお礼を言われた。まぁそうか、オレの説明じゃわけわかんないよな。

 でもいいじゃん、助かったんだからさ。難しい話は置いときなって。

 ここでようやくレイラが声を発した。今まで固まってたのかよ?



「ちょっとタクミ! もしかして魔人族の肩持つ気?!」

「そうだな、成り行きというか……半強制というか」

「あのね、この世界で魔人と関わって生きていけると思う? どこの国行っても捕まるか殺されるかしちゃうわよ」

「そうか、じゃあそんな旅にお前は連れていけないな。オレはこの娘と旅を続けるから、お前は故郷に……」

「差別反対! 魔人はトモダチ! 私はたった今、博愛主義者に転向したわよ!」



 相変わらずの手のひら返し、コイツのはキレが違うな。

 まだ疑い半分の魔人の少女の手を取り、必死に取り繕うレイラを伴って、オレたちは森の奥へと消えていった。

 そして、書き置きのように例の幻聴が最後に聞こえた。頭痛の伴わない、メッセージだけが。




ーーオレの力をやるから、魔人族を頼んだぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る