超負け組戦国誌 ~これじゃ、二次創作の世界なんですけどっ!?~

OLDTELLER

超負け組戦国誌 ~これじゃ、二次創作の世界なんですけどっ!?~

壹日めの|混惑《Χάος,》 全10部 2,3774文字

イジメっ子に殴られて、前世を思い出したんですけどっ!?






「うぅ…………っくあ……ぅっ……ぉ…………」


 その一撃は、やけに効いた。


 たかが、子供ガキの一発だが、流石は未来の最凶の偲びの一撃だ。


 いや、今の俺も子供だから効いただけか?


「オマエは盟約を盾にした唯の臆病者だ。悔しかったら立って殴り返してみろ。避けも殴り返しもしない。一発受けてやる!」


 こめかみを殴られて、目を回して倒れた俺に、<征夷大将軍>初代と戦った<正道王>アテルイの名を受け継いだイジメっ子が、脳筋な台詞を口にする。


 つい、さっきまでの俺なら、成す術もなく、ただアテルイの無謀な蛮勇と‘ 弱肉強食論 ’に暗い怒りを募らせるだけだっただろうが、今の俺はそれどころではなかった。


「また、負け組以下かよ、前よりヒドイ!」


 思わず、そう叫びそうになったのを何とか我慢できたのは、俺が見た目どおりの七歳の少年ではなく、前世29年と前々世の34年の記憶を取り戻したせいだろう。


 トータル70年の負け組の記憶が、ここが『恩讐のアテルイ』という前々世の俺がゴーストライターとして原案を書いた2作目のマンガの世界だと教えてくれた。


「知ってるか? 本当の負け組は存在すら消し去られるんだぜ」

 

 アテルイにそう言いたくなるのも抑える。


 流石に転生も二度目となると自制も効くというものだ。


 何せ一度目は、自分が書いたマンガ世界に転生したなんて、狂ったのではないかとか、死ぬ前の夢じゃないかとか疑ったり、アイデンティティーがどうのと悩んだりで、色々とやらかしてしまった。


 だが、全てを受け入れ克服した俺は、<俺改Ⅱ>だ。


 ‘ 我思うゆえに我あり ’を実感し、悩んでも仕方ない事は悩まないと‘ 色即是空 ’を実践する男にクラスチェンジした俺に隙はない。


 ああ、ないとも…………っ! …………。


 前世の能力バトルマンガ原作の世界は、一瞬の判断のミスが死を招く危険な物語の世界だった。

 

 射撃系、武闘系、付与系 属性系、具象系、呪法系、傀儡系、 復元系の八極に分類される超人的能力<志念>を操るキャラが日常で暴れる最初の俺が創った世界。


 当時ヒットしていた作品の二番煎じで書けと言われて、不本意ながら書いた物語だっただけに、なんでこんな作風ものを書いたと前世では後悔したものだ。


「戦車も一発で吹き飛ぶレールガンだっ、くらえ!」

「…………ちょっと、痛ぇな」


 なんて化物が暴れる世界だったのだ。


 それに比べれば、この世界はリアルな残酷さはあっても、<志念>能力者は、存在していない世界だ。


 今の肉体おれでは、使えなくなってるようだが、九歳の少年アテルイなど、<志念>を覚えれば、小指で殺す事もできる。

 

 だから、俺が立ち上がらないのは、当然アテルイに怯えているわけではないし、殺意を抑えるためでもない。


 確かに今世の記憶もあるからアテルイに想うところはあったが、70分の7の子供おれの未熟な想いなど、前世までの想いの重さに比べれば些細ささいなものだ。

 

 それに、今世の少年アメツチとしての俺にも、未だそんな殺意は芽生えていない。


 まだ今は、この<まつろわぬ民>の集落で、臆病者の卑怯者の烙印を押されるはずのイベントシーンの最中だからだ。


 この場面は、自分達日本古来の原住民族を騙し、<和義の治証ヤマト>を破って、盟主である日巫女ヒミコを追放して乗っ取り、力で王政を打ち立てた者達に対して、力で対抗できると信じていたを描くシーン。


 アメツチは、ここでアテルイに殴りかかりもせず、敵対する豪族を力で下そうとするアテルイの蛮勇を表立って批判もせず、大人達に告げ口をする道を選ぶ。


 争そえば、この地を追われて自分達ムスビの一族が滅ぶだけと知っている大人達は、一族の先細りを知り、どうにかしたいと思いながらもアテルイと子供達を叱責。


 そうしてガキ大将のアテルイと取り巻き以外にまで嫌われて、義母以外の大人達にも自らの卑屈さを映した存在と思われ、孤立したアメツチは、少年期編の卑怯な悪役となっていく。


 後のアテルイの反面教師であると同時に、十年後にムスビの一族が滅びる時に、眠り薬をアテルイに盛り、生きて恥を晒せと言い残して死ぬ事で、忍者アテルイの後の人生を決定したキャラ。


 それが、────つまり、今の俺だ。


 ほとんど瞬時に、俺は今の状況を理解して反射的に対策を練り始める。


 そうしなければ、即、あの世行きになる前世の修羅場で鍛えたおかげだ。


 ここは、運命の分岐点。


 ここで失敗するわけにはいかない。


 こういう時は前世で鍛えたあの技だ。


 とりあえず、時間稼ぎに俺は、起き上がろうとして眩暈を起こしたふりをして、倒れこむ。


「良し、立ったなアメツチ。じゃあ……ってオイ、どうした? あれ?…………ア、アメツチ!?」


 アテルイのあわてたような声がして、周囲の子供達もざわざわと騒ぎ出す。


 秘技、タヌキ倒れ。

 大ダメージを受けたふりで敵の油断を誘う技だ。


 前世では、この技には世話になったものだ。


 ……いや、対策まで瞬時に練れてたら前世でザコじゃなかったって!


 ちょっと頭の回転や機転を鍛えたって、俺は基本的に凡人なのだ。


 うん、だから問題の先延ばしも仕方ない。


 ほら、! 立場だけは偉いクズの勝ち組とかもく責任のがれしようとヤッてるしな!


 というわけで、周囲が心配しだして大人達を呼び、家に運ばれるまで、俺は熟練の脳震盪を起こしたふりを続けた。


 …………情けなっ!

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