第50話 海で


「よういっちゃん!!おはよーー」


目の前に、ギャル子が居た。

そう、ギャル仕様のギャル子だ。


しかも、サンダルにホットパンツ、ビキニタイプの水着の上にパーカーを羽織っている。

どうみても海に遊びに行くギャル仕様だ。

そして、意外や意外・・・ギャル子は中々素晴らしい物をお持ちだ。

JKなのにけしからんけしからん。


だが・・・予定と違う。


「あー・・・、おはよう・・・」


「よういっちゃん?なんでテンションそんなに低いの?海だよ?海」


おいおい、このお子様ギャル子は遊びに行く気なのか?なのか?


「あー、よういいっちゃん。おはよう。そして、ごめん。」


同じくテンション低めな後藤さん。

申し訳なさ100%だ。


「あー、ダメでしたか?」


「ああ」


「ちょっと、もしかして格好の話!? ありえないっしょ!!海なのに地味な格好って!」


うん、完全にバカンスモードだ。

まあ、何だ仕方ないか。


「じゃあ、行こうか」


「ええ」


「よっしゃーー!泳ぐぞーー!」


テンションの差が有り有りなまま海に向かう。

ギャル子は常にテンションMAXだった。


そして、車を1時間ほど走らせて海に到着したものの・・・。


「何か・・・人少なくない?」


「ああ、恐らくは能力者のせいだろう・・・まあ、仕方ないだろうがな」


「ええ」


海岸にはポツポツとしか人が居ない。

そして、女性が居ても親子連れ。

しかも、女性はTシャツやラッシュガードを着ていて露出はかなり少なめだったりする。


「さて、こんな状況で能力者が現われるか分らないが・・・」


「ええ、とりあえずは準備しましょうか」


「だな」


「さかやちゃん・・・これに着替えて欲しい」


私はスク水をすっと取り出して、ギャル子に渡す。


「は?」


「これに着替えて」


「何で、こんなところでスク水に着替えないといけないの?バカじゃないの?」


「はぁ・・・これにもね能力が付いていて、水魔法、水中移動、水中呼吸が付いているんだよ」


「うんうん、仮にそうだったとしても着ないよ?こんな場所でそんなダサイの」


凄い真顔で言われた。

後藤さんに視線を向ける。


首を振られた。


「う~ん・・・困った」


「まあ、それ無しでも能力者さえ捕まえればいいんでしょ!」


「それはそうだけど」


「それで、その能力者って?」


「は?後藤さんに聞いてないの?」


再度、後藤さんに視線を向ける。


あっ、という顔をした。


「えっ?教えてないんですか?」


「す、すまん・・・最近忙しくて言うの忘れていた・・・」


「あー、確かに最近はアニキ忙しそうだったもんね。殆ど会ってなかったもんなぁー」


「えーっと、それじゃあ説明お願いします。」


そして、しばし説明する。



腋毛が生えると。



「はっ?何それ?意味分らない」


「だよねぇ・・・」


「とりあえず、いきなり生やされる嫌だし、パーカー着たままにしとこうっと」


「じゃあ、とりあえず海に行きますか」


そうして、3人で見回る事にした。

その前に、ギャル子から声を掛けられる。


「ねえ、よういっちゃん!日焼け止めクリーム塗ってぇん~」


「断る!」


「はぁ!? 現役JKにクリーム塗れる貴重な体験が出来るんだよ?断る?普通!?」


「遊びに来たんじゃないんだし、大体塗れるでしょ?」


「チッ、つまんないなー」


いや、正直塗りたいけども、これがスク水&ノーマルさやかちゃん仕様なら飛びついたんだがな。


「あー、でも、よういっちゃん。マジな話で背中と首の後ろだけは塗って!」


「ええー」


「頼むよぉ」


「後藤さんに頼みなよ」


「アニキは手でか過ぎだし、固くて痛いから嫌!」


「若いんだがら、少しくらい焼けてもいいって」


「いやだぁ、普段の生活に支障を来たすから!!」


「支障って・・・、まあ、いいやクリーム貸してみ」


「やったー、ありがとう!」


妙に言葉が固いギャル子だ。

まあ、これは本当に困っているみたいだから素直に塗ってやるか。


うん、すべすべだわ。

何だろう・・・いつまでも撫でていたい・・・。

だが、平常心平常心・・・。


「ふぅ・・・ありがとう」


「どういたしまして。それにしても、ホントに日焼け気にするのな。

 ギャル何だし、黒ギャルとか目指せばいいのに」


すると、後藤さんが近くに来て言った。


「ああ、さやかはな普段のイメージがあるからなぁ・・・」


「イメージ?」


「あいつ、生徒会副会長なのよ。まあ、それもいちお引退したらしいけど」


「へぇ・・・今の姿からは想像付かないなぁ」


「学校は結構五月蝿い学校だしねぇ・・・名門のお嬢様学校だし」


「ええっ?そうなんですか?どこの学校だろう・・・何かお嬢様学校って意外すぎですね」


「ああ、それはな」


と後藤さんが言おうとしたところ。


「よういっちゃーん! ちょっとちょっと!!」


「あー、さやかちゃんが呼んでますねぇ・・・」


「あはは、よういっちゃん行って来な」


「はい」


既に海に入っているさやかちゃん。

呼んでいるので来て見たんだがどうしたんだろう?


「よういっちゃん!冷たいよ!気持ちいいよー」


「そうだねぇー、どうしたの?」


「えっとね」


バシャン!!


と海水をかき上げてぶっかけられた。

このやろう。


「きゃはははは!! これやりたかったのーー!!」


「このやろう! くらえっ!」


お返しにかけ返した。

うん、何だろう楽しいんだが・・・私らの本来の目的とは違う。

だが、ついついしばし遊んでしまった。


その内、後藤さんまで加わり、ひとしきり夏の海を3人で楽しんだ。


「ねぇ、あっちの海の家でカキ氷食べよう!」


「おおっ!いいな!俺はブルーハワイで!」


「じゃあ、私はメロンで」


「あたしは宇治金時!」


「さやかちゃん渋いな」


「えー、美味しいじゃん」


そうして、海の家でカキ氷を堪能した。

うん、平和だ。


「平和だねぇー」


伸びをしながらさやかちゃんが呟く。


「そうだな。俺も最近は仕事が忙しかったし、何かいい感じな休息になったなー。これだけでも来た甲斐があったかな」


同じくまったりと、くつろぎながら話す後藤さん。


「私も何年か振りですよ海。やっぱたまにはこういうのもいいなぁー」


そう、普段はオフィス街の中で黙々と事務作業。

1年間の季節の変化なんかあんまり気にならないというか気が付きにくい。

寒くなった暑くなったの感覚程度である。

こうやって、海に来ると夏だ!と実感できる。

こんな感覚久しぶりである。


「はぁー、私も楽しかったー。さてっ、もうひと泳ぎしてくるかぁ!!」


そうして、思いっきり腕を天高く上げて立ち上がるさやかちゃん。

ギャルはあんまり守備範囲じゃないが、なんか海にとても合っている。


そして、若さ溢れる肉体がいい・・・と下から上まで見たときに気が付いた。


「さ・・・さやかちゃん・・・わ、脇・・・」


「へっ?」


腕を天高く上げたまま、さやかちゃんが顔を脇に向ける。

そこには・・・



薄い色合いのお毛けが風で揺らいでいた。



「・・・・・・な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


叫ぶさやかちゃん。

そして、咄嗟にパーカーの前をバッと締めてしゃがみ込む。


「さ、さやか」


「さやかちゃん・・・」


「ちゃ、ちゃんと抜いてたのに・・・なんで!?」


抜いていたのか。

でも、元の量が少ないのか色も濃く無く何か可愛らしい感じだった。


「どこに居るんだ?能力者は・・・??」


後藤さんが回りに目を光らせる。

私も周りを警戒する。

周りに居るのは家族連れ。


一人で来ているようなのは居ない。


まさか、店の店員か!?


見渡すもそれらしいのは居ない・・・そもそもいつの間に生えたんだ?


「ううぅ・・・」


既に小さくなってしまっているさやかちゃん。

正直、男の私からしたら腋毛はそのままだから、気持ちが分りにくいが・・・やっぱ恥ずかしいのだろう。


「これは・・・参ったな・・・どこからか分らん!」


「ええ、まったく検討が付きません」


「何かしっぽでも出してくれれば」


「ええ」


その時だった。


「おかあさーん、ここおけけもじゃもじゃーー」


子供の声が聞こえた。


「えっ!? うわっ、嘘!? 本当にこんなことあるの!?」


どうやら、近くの親子でも母親の方が生えたらしい。


「もう!今日は西の海岸の方で起こったって聞いたからこっちに来たのに!」


「まあまあ、母さん。また剃ればいいだろう」


「普段の処理ですら面倒なのに・・・やっぱ噂通り海水に変な成分混ざっているのかしら?」


「いや、それが本当だったら、この海自体泳ぐのもやばいだろう」


「そうねぇ・・・でも、あなたの頭部には効くんじゃない?」


夫婦の会話に聞き耳を立ててると、そんなことを言っていた。

噂として流れてはいるようだが、それでも海に来るんだなぁ・・・。

そして、お父さんの頭部は頭頂部がやや薄い。


「まったく持って謎だな」


「ええ・・・」



「ほーんとに!!こちとら商売あがったりだよ!!」


すると海の家の店主らしいおばさんが後ろから声を掛けてきた。


「えーっと、何か大変みたいですね」


「ああ、何だこの腋毛が生えるとか変な事が起こってから客が減ってねぇ・・・。ただこの海の成分のせいとか言うやからも居てね。

じゃあ、他の海岸はどうなのさと思ってたんだよ。

でも、昨日辺りからかな西の海岸でもチラホラ出たみたいでねぇ・・・」


「へぇ・・・」


今居るのは東の海岸、ここからちょっと先に西の海岸がある。

道路でほぼ直線で繋がっているが・・・。


「ああ、そうそう! でも何か育毛効果がこの海水にあるんじゃなかろうかと薄毛の人がよく来るようになったよ!!それで多少は客も居るがな。ガハハハ!!」


そう言って、おばさんは豪快に笑う。

まあ、何にしても海の家の人もこのせいで大変である。


「後藤さん・・・とりあえず西の海岸にも行って見ますか?」


「そうだな・・・行って見るか」


「さやかちゃん・・・行こうか?」


「うん・・・ねえ、よういっちゃん見た・・・よね?」


「え、うん・・・その見えちゃったけど」


「・・・恥ずかしい」


えーっと、ギャル子だけど一瞬ノーマルさやかちゃんの面影が出るくらい可愛い反応だった!!!

まあ、年頃の娘さんだしなぁ・・・。

とりあえず、西の海岸に向かう途中でコンビニでも寄ってみるか。


そうして、3人で今度は西の海岸へ向かった。

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