第37話 水と土


「よくもやってくれやがったな!」


と叫び凄む後藤さん。

それとは対象に、ただ佇みこっちを見据える能力者。


「ふぅ・・・私の楽しみを邪魔するとは・・・そして、あれだけ泥水を被せたのにもう追ってくるとは」


「ふん!さっきの借りは代えさせてもらうぞ!」


そういった直後に走りこむ後藤さん。

その直後頭上に黒い塊が。

上を一瞬見据え、落下しはじめたタイミングを見計らい横に飛ぶ。


「ふんっ!!」


と声も出るほど、地面を蹴る。

その勢いのおかげか、泥水はギリギリのところで回避された。


「ほぉ・・・、そうすれば避けられるのか」


驚く能力者。

急な体勢移動で片膝立ちになった後藤さんも膝をパンパンと手で払いながら立ち上がる。


「ふん、何度も同じ手をくらうわけないだろう」


「だが・・・これならどうだ?私の魔法を舐めないで貰いたいな」


と言った能力者が手を空中にかざし、その瞬間空中に泥水や水の塊が何個も発生する。


「うぉ!これは多いっ!!」


落下を見据えて、次々と飛び避ける。

しかし、残り数個というところで・・・バシャン!!


「くそーー!!」


ただの水の塊だったがびしょ濡れになる。


「ああ、全然ダメだな。やっぱ男が濡れてもむさ苦しいだけだ」


「なんだと!?」


そう言って、能力者は泥水を空中に幾つも作る。


「マズイっ!」


水に濡れたせいで体は重くなっている。

今、これだけの数が振ってくると避けるのはほぼ不可能だ。


「アニキーーーーーーーー!!」


さやかちゃんの声が聞こえたと同時に後藤さんにドンとぶつかりつつも抱き上げて泥水を避けた。


ドン!


「ぐぼあぁ!!」


「兄貴!間に合ったね!」


「ぐへぇ、げぼぉ・・・ゴホッゴホッ・・・さやか・・・違う意味で死ぬかと思ったぞ」


能力強化された力で体当たりに近い形だった。

そりゃ、ガチムチな後藤さんでも相当痛かったはずだ。


そして、抱え上げ避けた結果。

現在、制服姿のさやかちゃんがガチムチおっさんの後藤さんをお姫様抱っこしている異常な光景にもなっている。

何だこの意味不明な光景は。


「さやか・・・もう降ろしてくれないか? 何か、兄貴なのに妹にお姫様だっこされているなんて微妙に悲しいような、妹の成長を喜んでいいような複雑な感情だ」


「えー、たまにはこういうのも面白いじゃん! いやぁ、やっぱこの制服の力って凄いね!」


そう言いながらも後藤さんを降ろすさやかちゃん。

そして、能力者の方を向いて言う。


「さっきはよくもやってくれたね!今からあんたのやった事を後悔させてやる!!」


「ほぅ・・・今の力といい・・・お前も魔法使いか」


「魔法使い?いや違うけど」


「違う? この神より与えられし力が魔法以外なんだと言うんだ?」


「う~ん、兄貴―こいつ何か良く分んない」


「ふふふ、まあいい。さっきまでそこのむさ苦しい男を嫌々ながら濡らしていたんだが、キミみたいな可愛い制服来たお嬢さんを濡らす事が出来るなら喜んでやろうじゃないか」


「うわ、なにこの人・・・キモすぎ」


そう言って、盛大に顔を歪めるさやかちゃん。

そして、ニヤリと笑った能力者は手を前にかざす。


「さあ!素敵な制服が濡れる様を見せてくれ!!」


そう言った直後に大量の水の塊が頭上に現われる。


「このくらいで!」


瞬時に飛ぶさやかちゃん。

余裕で避ける。


「まだまだだよ」

更に水の塊を呼び出す。

そして、それを次々避ける。


そのさなか。


バシャン! がぶっ! バシャン ぐべぇ!! バシャン! 「さ、さやヵ・・・」


と巻き込まれる後藤さん。

今日は散々である。


「うーん、避けるのは余裕だけど、こっちも打つ手が無いなぁ・・・こうなったらこの制服の魔法で!」


手をかざし、魔法を発動させるさやかちゃん。


「くらえっ!! ・・・って、この制服何の魔法があるんだっけ? あ・・・よういっちゃんに聞くの忘れてた~~~」


「さやかちゃん!! はぁはぁ・・・やっと追いついた・・・」


ここで、ようやく追いつくおっさん。

既に息が上がり、日頃の運動不足を呪うのであった。


「さやかちゃん!その制服は土魔法だ!! 土を呼び起こし防御に使え!」


「うん分った!!」


そして、再度手をかざす。

目を瞑り、何かをイメージしている様子のさかやちゃん。


「いけぇぇぇ!!!」


次の瞬間。


ドガガガガガガガガ!!

と音が鳴り。


能力者の周りから土が競り上がる。

それはどんどん球状になり


「な!なんだこれはぁぁぁぁぁぁ!!!」


叫ぶ能力者


ガガガガガ! グァガン!!


結合するような音が鳴り。

能力者を包み込むように土のドームが出来上がった。


「さ、さやかちゃん・・・防御にって言ったけど凄いの作っちゃったねぇ・・・」


「うん、てっとり早く終わらせるには、こうするのがいいかなーって思ってやって見たけど上手くいったねぇー」


呆然と見上げる私。

さやかちゃんは満足そうだが正直いきなりこんな場所に、どでかいドームが出来ると異様な光景だ。

それにしても、この制服の能力もすさまじいな。

一瞬でこんな物が作れるなんて。


可愛らしい制服なのに凶悪な能力だ。


「でも、さやかちゃん。これどうするの?」


「う~ん、どうしよう。多分、魔法で穴空けたり出来ると思うけど」


「そうかぁ・・・、あ、でも、これ酸欠になったりしないかな?」


「まあ、広いし少しの時間なら大丈夫っしょ」


大丈夫かなぁ・・・。

開けて見たらお亡くなりになっていたとか嫌だな。

さて、ここは困った時の後藤さんだな。


「後藤さん!おーい、後藤さん!」


「・・・もう、お水やだ」


ずぶ濡れになった大型犬のようになってた。

仕方ない。


変身! で白衣装着からの浄化!!


「おっ、おおーー」


一瞬で綺麗になる後藤さん。

浄化なのに乾燥機能まで付いている。

これ便利だなー。


「すまんすまん。途中まで上手くっていたんだけどなー」


詫びる後藤さん。

まあ、流石に基礎身体能力の高い後藤さんでも、ああいった魔法相手では厳しかったか。


「兄貴あとで、パフェおごりな」


「おいおい、まだ食うのかよ」


「えー、わたし大活躍だったっしょー」


「いや、よういっちゃんの能力のおかげだろう!」


そう言い合う兄弟。

それよりも、まずは捕まえた能力者を何とかしないと。


「後藤さん。まずはこの能力者何とかしないと」


「ああ、そうだった。まあ、こんな時の困った時はミスターゴールドだ!」


電話を掛ける後藤さん。

そういえば、スマホもびしょ濡れだったけど大丈夫だったんだろうか?


「あー、はい。水とか泥水を出す能力者だったんですけど」


「えっ?そうなんですか?」


「はい、じゃあ場所はー」


そして、電話が終わる後藤さん。

こっちに向き直り言う。


「あの能力者、ゴールドさんの標的だったって・・・」

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