第10話 翌日
「係長! 山本係長!!」
と声を掛けられ、ハッと目が覚める。
部下でイケメンの坂田君から声を掛けて何事かと起きた。
昼の休憩で机に突っ伏して寝ていたら、既に休憩が終わっていたらしい。
書類に思いっきり、よだれがべっとりと付いていた。
爆睡だったようだ。
「やっと起きましたねー、珍しいですね。徹夜でもしてたんですか?」
「ああ、ちょっと昨日は遅かったからねぇ・・」
「何してたんです?」
「ん?ああ、ちょっとな」
「ちょっと何ですか~、気になりますよー」
中学生に体操服着せてキャッキャウフフしていた何て言えるわけがない。
まあ、ここは無難に。
「いや、ちょっとネットで調べ物をしていてね。気が付いたら遅くなっていたんだよ」
「何かハマっているんですか?」
「ああ、ちょっとアウトドア的な事にハマっていてね」
「おおー!いいですね~僕も良く大学時代のサークルメンバーと一緒にBBQやキャンプを~」
しまった。
適当な事を言ったら、まさかの相手の趣味を刺激してしまったようだ。
これは墓穴を掘ったパターン。
しかも、坂田君は自分が好きな事は遠慮なくバンバン喋るやつだ。
こっちが興味無くても遠慮なく喋る。
以前飲み会で延々と話を聞く羽目になった。
だが、イケメンで地味にしゃべりも上手いから聞かざるを得なくなる。
他の女性社員なんか、どうみても話の中身が入ってなく、ずっと坂田君の顔を見てニコニコとうなずいているだけ。
おっさんには苦痛しかないが、上司として黙らせるのも何だから違う意味でニコニコとして聞き、キリの良いところで「じゃあ、仕事に戻ろうか」と言い話を何とか終わらせるいつものパターンに持っていく。
コミニュケーションも大事なのだ。
中間管理職の大変なところだったりする。
そして、無駄にBBQやキャンプの知識が坂田君のおかげで見に付いたひと時だった。
時間は経ち、今日は残業を1時間程し昨日の夜に鈴ちゃんと約束した神社へ行く。
途中の公園のトイレで『ドクターY』へと変身するのも忘れない。
そして、目的の神社へ到着。
神社の鳥居の近くに立っている少女が居た。
鈴ちゃんだった。
さて、ここは無難にドクターYらしくクールに行こう。
「待ったかな?」
「いいえ、大丈夫です」
「さて、昨日は家に帰ってからどうだったかな?」
「それなんですが・・・」
と何か表情が暗い。
どうしたというのか・・・
「うん? あまり宜しくない事にでもなったのかな?」
「い、いえ!ママの彼氏の件は大丈夫でした! おかげで、私にビビッたのか多分もう近寄らないと思います」
・・・おいおい、近寄らないって何があったんだ。
むしろそっちも気になるが・・・。
「あの・・・凄く困ったのが、この体操服が壊れてしまったかもしれません」
「え?」
壊れた?
どういうこと??
「それが、体操服の姿のままでも力が出なくなって・・・」
そして、神社の鳥居にパンチをするものの何の変化も無い。
っていうか、いきなり神聖な鳥居を殴らないでくれ、一瞬ヒヤっとしたぞ。
だが、これは体操服の能力が消失しているって事なのか?
どういう事だろう。
とりあえず、ここは・・・
鑑定!!
*****
K県立高等学校 女子 体操服
能力
筋力:
体力:
耐性:
敏捷:
魔力:
魔耐:
技能:
*所有者が違います
*****
あれ?? 能力が付いてないし、技能も消えている。
しかも・・・
『*所有者が違います』・・・だと!?
・・・これはどういう事だ?
考えられるのは、誰かが着ると所有者が移行するって事か?
じゃあ、そのタイミングは?
「すまない、佐伯鈴さん教えて欲しい」
「あの、鈴でいいですよ」
おぅふ、呼び捨てでもいいのかい?
でも、心の中では鈴ちゃんなんだけども。
「そうか、じゃあ、鈴」
「は、はい」
「能力に消えたのに気が付いたのは、いつ頃だったかな?」
「えーっと、多分・・・2時間前くらいだと思います・・・」
なるほど、という事は午後8時・・・
う~ん、昨日初めて体操服を着たのも8時過ぎくらいだったような・・・
つまり、1日か24時間か正確な数字は分らないけど、それくらいで所有者が変わるって事なのか?
恐らく、その可能性が高いかもしれない。
これは、また妙な縛りがある能力だこと・・・。
それに考えてみれば、自分の所有物しか鑑定をしていなかった。
今度、他の人のも鑑定してみよう。
恐らくは鑑定しても、今みたいに所有者が違うから鑑定しても意味がないのかもしれない。
さて、とりあえず今は目の前の問題か。
「ああ、鈴。」
「はい」
「これは、恐らくだがこの能力というか体操服のパワーが24時間しか持たないのが原因だと思う」
「えっ!?そうだったんですか!」
「ああ、しかも、このパワーの充電は私の研究所でしか出来ない・・・いや、他のスーツもあるのだが」
「そうなんですか?」
「ああ、とりあえず今日私が持って来ているのを試してみるかい?」
「はい!」
そして、アタッシュケースを開けて見せる。
「え・・・これは・・・ちょっと・・・」
とかなり嫌そうな顔をする鈴ちゃん。
中身は・・・
*****
K県立商業高等学校 女子 スクール水着
能力
筋力:+3000
体力:+3000
耐性:+4000
敏捷:+2500(水中時+3500)
魔力:+2000
魔耐:+1000
技能:水中呼吸、水中高速移動、水魔法
*****
はい、スクール水着です。
かなり攻めてみました。
うん、攻めすぎたかな。
いやね。
荷物もかさばらないし、軽いし、しかも魔法も付いているし。
フルセット物の学生服は、正直なところ能力値的に怖い。
あと、鈴ちゃんにとても似合いそう。
恥ずかしがる様も見たかった。
白い肌と紺色のコラボレーションを堪能したかった。
それになにより、今の鈴ちゃんのおっさんへの信頼度の高さなら「はい!分りました!」と言ってくれると信じていたが・・・
「見ての通りのスクール水着だ」
「あの・・・ドクターYさん・・・これは流石に・・・」
うっ、マジで引いている。
「だって、あの・・・海やプールでもないのに水着着てるってちょっと・・・、それで戦うのも恥ずかしいというか・・・」
ああ、マジで恥ずかしがっている。
でも、ちょっと顔赤くしてモジモジとしている鈴ちゃん最高です。
これは、着て頂いて鈴ちゃんの白い肌が真っ赤に染まりながら恥ずかしながらも戦う(何と?)鈴ちゃんを見てみたい。
スクール水着戦士鈴ちゃんマジ天使。
「ふふふ、だがこのスクール水着の特殊能力は凄いのだよ。水中呼吸、水中高速移動、水魔法」
「魔法っ!?」
「そう、水を使った魔法のような攻撃が出来る」
「す・・・凄く気になります・・・けど、水中の能力ってどうやって調べれば・・・」
「ま、まあ、今回は水魔法だけでも」
「いや、あのすみません。その前にですけど」
「うん?」
「とりあえず、体操服も返却します。今度の件はすっごくドクターYさんには感謝しています。そして、おかげで多分解決したと思います。だから、体操服の能力は凄く楽しかったし、嬉しかったけど、もう必要なさそうなんです」
凄くいい笑顔で語る鈴ちゃん。
と同時にサングラスで表情は見えないものの突然のどん底に突き落とされるおっさん。
「・・・え、ああ。そうなの?」
「はい、なので最初は体操服を壊しちゃったかと思って・・・それでどうしようかと、壊した上でもう大丈夫ですって凄くダメじゃないですか」
うん、鈴ちゃんすごくええ子や・・・。
でも、折角の実験台&着せ替え対象が・・・。
だが、おっさんも大人だ。
「じゃあ、これはもうキミには必要ないのだね・・・」
「はい、お返しします」
「ああ、分った」
そして、おっさんの手元には鈴ちゃんの温もりの残った脱ぎたて体操服が残った。
最初の鈴ちゃんの暗さはどこへやら。
太陽のように明るい笑顔と雰囲気で手を振って去っていった。
それを見つめる寂しいおっさん。
手元にあるぬくもりのある体操服・・・いつものコレクションでは部屋の気温に晒された温かみの無い生地が今では人肌のぬくもりを持っている。
それだけで、普段と違う綿とポリエステルの繊維の肌触りがいつも以上に興奮を引き立てつつも、心の中にはぽっかりと穴が突然空いたような感覚。
私の中では、もっとこの幸せな時間が続くはずだった。
せめて・・・
「スクール水着は着て欲しかったな・・・」
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