単純な加算。電車に轢かれたのは一人なのに死んだのは二人。何故?

歌川裕樹

第1話 轢死

その日、私はいつも混んでいる、とある路線(発車間隔がとても長いのが特徴であり結果として混んでいるのは当然だ。今は違うかもしれない)で高校に通う、普通の高校生として駅に向かっていた。授業も終わり帰路の途中だった。


駅に近づくにつれて、ざわついている構内が気に成った。


混雑は当然だけれども、こういう時には痛ましい事が起きている。


自殺。


名所と言っても良かった。一年に何度も『現場』を見ることなどそうはない経験だろう。現在の、とある有名な路線(東京では)は人身事故で有名だが、現場を見ることは滅多にない。


その日も私は胸騒ぎを抑えて駅の階段を降りた。また、起きたのか。

ホームは人で混雑している。それだけならいつもの風景だ。


だが、ざわめきは主に死について語るものだった。嫌な予感が的中する。


ホームを無意識に観察していた。


綺麗に脱ぎ揃えた革靴が一人分、ホームの端、最も列車が高い速度で突入する地点に脱ぎ捨てられていた。その上にいるべき人物が今はもういない、と主張するように。


放り投げたように「死体の脚」が線路に落ちていることに気付くまでそれほどの時間はかからなかった。人体の無残な断片を目にするのは何度目だっただろうか。


ブルーシートが覆い隠しているのは恐らくさらに惨い血肉の塊だろう。

血塗れの死体の断片は散らばったままだ。まだ死体処理は始まったばかりのように思えた。


列車が動き始めるまでの長い遅延を予想して、帰路を共にした友人は嘆息していた。

だが、問題はそれだけではなかった。

事件として、これは二人の死を意味していた。それは周囲の声から推測出来た。


飛び込んだのは正確に一人。

死んだのは正確に二人。そう噂している。


次第に詳細が明らかに成っていく。直接目撃した者は少ないようだった。

ここで何故そうなったか即答出来るものは余程のミステリ読みか、クイズの名人だろう。


二人の死をクイズに見立てて遊ぶほど私は悪趣味ではない。(ミステリーが悪趣味だという意味ではない。私はミステリーが好きだ)


悲劇が起きた理由は単純かつ痛ましい。


人間の頭はかなり重い。それは誰でも自分の頭で実感しているだろう。


それに充分な速度が付いていれば致命的な破壊力を持つ。


事件はその物理法則に従って起きた。

撥ねられて速度を得た血塗れの頭部が女性の胸へ巻き込むように飛び、まともに受けた女性は心臓が潰れてしまったのだ。


轢死した誰かを含め、二人とも即死だった。


人身事故が頻発する路線では気を付けたほうがいいと考える。

死体がどう崩壊し飛び散るか、など予測はつかないのだから。

道路でも安全とは限らない。


もっと早く駅に着かなかったことは私には幸運だったのだろう。

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単純な加算。電車に轢かれたのは一人なのに死んだのは二人。何故? 歌川裕樹 @HirokiUtagawa

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