ほしくず

キツノ

第1話

6月は祝日がない,なんてのび太が言っていたことを、6月が来ると、いつも思い出す。

6月のはじめ、雨が降っていて、暗い教室で、教師が黒板に書く文字を必死に写しているときに、今年は思い出した。

ああ、そうだった。祝日がないんだ。ちょっとがっかり。

そして、これは、今日一番のがっかりなんだけれど、わたしは道徳の時間の席替えで、見事窓際を射抜いてしまった。6月の窓際は、コバエの襲来におびえながら過ごさないといけないからまったく嬉しくない。

外が曇りのせいか、教室内は夜のように暗い。車が雨を弾く音が聞こえる。

冷たい窓を触ってみる。どれくらいの力を加えたら割れるんだろう。アクション映画だったらばかみたいに割れまくるのに。外から見えるテニスコートは水溜りばかりで、今日は多分……

つん

シャーペンで肩をつつかれて、クラスのみんなの視線がわたしに向けられていることに気がついた。

「教科書23ページ」

隣の男の子が国語の教科書を見せてくれる。

いつの間にか音読が始まっていたらしい。


「2回も呼ばれていたのに、うわの空だったのはびっくりしたな」

「うん、自分でも異常だと思う」

今、わたしと話している北上ちゃんは眼鏡をかけた、背の高い女の子。

「あ、そうだ」

わたしは教師が近くにいないことを確認して、鞄からこっそり、ケースに入れたブルーレイを取り出す。

「栞ちゃん、シルヴェスター・スタローン好きだね」

「そうなのかな」

「あっ、そうだ」

北上ちゃんは自分の席に行き、わたしと同じようにあたりを確認して、ケースを取り出して持ってくる。

「これ、貸すよ。本当に名作だから。90分だからすぐ見れるよ」

「うん、ありがとう。いつの映画?」

「2008年」

初めて作品をくれた。嬉しい。

「じゃ、ね」

北上ちゃんが自分の席に戻った後で、今日の嬉しいことを挙げてみる。

北上ちゃんがシルヴェスター・スタローンを知っていたこと。わたしに、本じゃなくてなんと映画を貸してくれたこと。今日が金曜日だということも、付け加えておきたい。

……でも、5時間目は数学というのは、頂けないな。





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