ジョニーと吹雪の要塞
ナツキライダー
ACT.1 ジョニーが来る
………壊れた音声端末を無造作に投げ捨てる。
「よう、そこのマッチョ。吹雪のロシアン要塞に観光か?」
「ま、そんな感じだ。」
死の暴風雪に覆われた地獄の不毛地帯、『エカテリンブルク・ウラル基地』の国境に不審者現る。約3mのオートマトン『まもるくん』にまたがったマッチョだ。
薄暗い雪原にV12ハウトロンエンジンを響かせ男は言った。「ここを通してくれ。」……と。
「ネームコードを出してくれ、最近Heaven’sの連中がこのレジスタンス基地に攻めてくるとか何とかでな。」
Heaven’s…それは人類絶滅を回避すべく思想や文化、種の保存等ほぼ全てを機械任せにした人工理想郷である。アメリカを中心に広がった人工理想郷はヨーロッパの7割を征服し、こうしてロシアの地にも手を伸ばそうとしている。
「これでいいか?」
バイカル湖で買わされたオームリという魚の燻製を食いながら入国管理官に端末を差し出す。
「ジョニー・シキシマね。Heaven’sポリス、天獄のデスコンドルと同じ名前だな。」
「よく言われるよ。」
ガシャンという軽い音でデジタル切符を切り、観光客にお決まりの質問をする。
「俺はレッカーマンだ。ようこそエカテリンブルク・ウラル基地へ、どんなご予定で?」
「ちょっと人探しを……な。」
彼はただの観光者ではない。そのHeaven’sからやって来たデスコンドル、ジョニー・シキシマ本人なのだ。
まもるくんへのライディングポーズはバギーに近い。雪の積もった土地でも難なく走れるのは丈夫な足回りのおかげだろう。
雪に閉ざされた基地を走り5分、目立つ建物は7階建ての管制塔とその前の巨大な倉庫。それ以外は2階建てくらいの四角いプレハブと格納庫らしきものだけ。ショップもその中だろう。
建屋は見ただけでもわかるくらい防弾特殊コーティングの黒鉄塗料が使われている。
「なんだお前ジロジロと、スパイか…?」
「スパイがこんな目立つ格好すると思うか?ただの観光だよ。」
「全くあんたも物好きだな、ここはHeaven'sヨーロッパとの最前線。生きてられる保証なんかねぇのによ。……ほら来た、じゃあな!」
フォォォォォオオオオオオン!!
突如鳴り響くサイレン…それは敵の襲撃を宣言していた。冷たい空に響く風切り音、それは全長40mの大型弾道輸送ロケットのエアブレーキだ!
「4本のロケット内部に反応…中級10機!天使共が来るぞぉぉぉぉお!」
「迎撃ミサイル、マスターアーム・オン!ファランクス、マスターアーム・オン!」
「フェーズ1、対空防御…開始!」
「撃てェ!」
管制塔に向けたポリスマイクが拾った単語…天使。――それはHeaven'sが反逆都市の制圧に使っている20m強の人型兵器の愛称。天国の使者だから…、そんな理由だけでHeaven’sとレジスタンス双方からそう呼ばれている。
ズドォォォォォォオオオオン!
対空迎撃フェーズ1が飛来するロケットに突き刺さる。
爆炎の中から飛び出す6つの機影、それは上半身を翼で覆った高速格闘機…『フリンゲル』だ!
滑空能力を有するこの天使をここでは畏怖の念を込めて襲撃機『シュトゥルモビク』と呼んでいる!
「撃破…4ッ!」
「住民の避難完了!フェーズ2だ、建屋格納と同時にプライェークト2を出す!」
「敵はフリンゲル!デモクラッドは出すな、マトになる!」
「新型も出すか?」
「まだ調整中だ!」
「一人外にいるぞ!まもるくんに乗っている!」
「尊い犠牲だ…アーメン。」
「あいつがキリシタンとは限らねぇ!」
「フリンゲル、距離1300!20秒後にこちらに接触…来ます!」
「発進急がせろ!」
その声に気付きジョニーが辺りを見渡すも遅かった!プレハブ住宅が地面に沈んでいき、シェルターめいた鉄の扉が閉まる!
逆に管制塔前方の倉庫はせり上がり、中からは反逆の焔が漏れ出す…。
『えー、全建屋の格納を確認。プライェークト2・チェルノボーグ…発進どうぞ!』
スピーカーから響く声とほぼ同時に格納庫の上昇が停止する。高さはおよそ120m…中には胸に真っ赤な星のペイントがしてある緑の巨神が立っていた。
ギギィ…と金属の軋む音とともに、右腕大型ガトリング砲2門を前方滑空中のフリンゲルに向け…掃射!射線上にいた1機は一瞬で火だるまと化し墜落!
「マジかよ…話には聞いてたが天使を一瞬で…。」
極東ヨーロッパ戦線には魔物がいる。確かにそう教わったが迫力が違う。
そんなジョニーの事など気にもせずそのまま地を踏みしめ進む80mの超兵器チェルノボーグ…背中のキャノン砲2門を入れれば110mはあるだろう…。20mのフリンゲルの5倍のサイズは圧倒的脅威たりえる!
天使3機は着地と同時にチェルノボーグの左右に展開、必殺殲滅火砲陣『クロスファイア』を開始。強力戦術と25mmリニアカノンの前では即死もやむ無し!
『すみぇー…ろすち……、すみぇー…ろすち…っ。』
まもるくんのポリスマイクが拾ったチェルノボーグの声…。これは、年端もいかぬ少女か?
意にも介さずチェルノボーグは脚部熱核ブースターで急接近し、前方のフリンゲルにアサルトアタックを敢行。全重量が最低でも5000トンはある体当たりを受けて無事なはずもなく、機体はペシャンコになり赤黒い保護液を霧状に飛び散らせた。
あっけにとられ動きの止まる2機を見逃さず、巨大な両肩からミサイルを放つ!左右に放たれた2発のミサイルは、外殻をパージし8発づつの亜音速無誘導マイクロミサイルとなる!
フリンゲルは回避行動など取る隙もなく直撃!爆炎の中に沈んでいった…ッ!
体勢を立て直そうとジェットを吹かすフリンゲルには全長50mの背面ダブルプラズマキャノンを食らわせる!
まもるくんのサーモアイは瞬時に1万度を捉えていた。重粒子ビームを高イオン化させたハイパープラズマ砲…完成していたのか!
もうヤケになったのか最後のフリンゲルが突撃をかける。手にはソニックブレード…これで一矢報いようというのか!
ウオォォォォォォォォン!
牙を剥き吼える。そう聴こえるのはメインコンピュータを強力冷却するターボファンの音!一度使えば回路は焼け付く…、もはや引く気など無いらしい!
急接近したフリンゲルは一瞬で3つの鉄屑に成り果てる!チェルノボーグの右手甲部から突出する2本のアイアンクローが切り刻んだのだ!
多少の重火器ではビクともしない装甲と、天使を八つ裂きにするほどの圧倒的パワー…これがチェルノボーグだ。
ジョニーは唖然とするしか無かった。3機いれば小規模基地を殲滅できる中級天使フリンゲル、それを一瞬で6機撃墜…。ロシアのチェルノボーグ、破壊神の噂は本当だったようだ。
チェルノボーグは機体冷却のガスを噴射しながら動きを止めた。警報解除とともにせりあがってくる建屋、そして歓声を上げる人々。残骸と化した天使はジャンクとして売られたりするのだろう。
……いや、残骸の中に1機、目に灯りを灯す機体がいた!そいつは街に銃口を向けガンポッドのトリガーを引き―――ッ
バドゥン!バドゥン!バドゥン!
3発の銃声がウラルに響き、熱い歓声は一瞬凍りつく。
1発目はガンポッド、2発目は手首、3発目はコクピットを正確に撃ち抜き、フリンゲルは糸の切れた人形のように活動を停止する。
「トドメってのはキッチリ刺すもんだぜ、嬢ちゃん。」
ジョニーが乗るまもるくんのボディカウルが左右にスライドし、そこからせり出すように大口径ポリスリボルバーカノンが露出していた。
まもるくんの安全運転装置を全て取り払い、必殺兵器として搭載しているのは彼だけだろう。
硝煙の上がるリボルバーを仕舞い、ジョニーはクールに去る。……いや、去っちゃマズい。
「なぁここにジーンテイルって男は…。」
振り返るとウラルの市民が再び歓声を上げていた。半数はチェルノボーグの活躍に、そしてもう半分は…。
「あんたやるじゃないか!しかもそんな旧式の鹵獲機で!」
「すっげー!俺もまもるドライバーなんだよ!今日から自慢するぜ!」
「やるじゃないかマッチョ!」
「見たろ?まもるくんってのはただの作業用マシンじゃねぇのさ!」
「あのギミックってデスコンドルの真似か?」
「アーメン!」
「うちの妹とお見合いしなよ!」
好き勝手言ってるがここに長居は無用。チェルノボーグの女、今のところ情報に近いのはあの辺りだ。
「礼はいらねぇから一泊泊めてくれ。」
ポリエステル…。全身が温かいポリエステルに包まれる…。ジョニーが招待されたのはマイナス34℃の外とは違うシェルターの如き管制塔12階の一室。
…だがずっとポリエステルベッドに包まれてる訳にはいかない。
「すみぇーろすち…、ロシア語で勇気…か。聞き覚えがあるな。」
時刻は21時…外は街灯と月で薄く照らされていた。
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