夏、君の声が聞こえる。

四ノ宮 唯架

#1



暑い…


どうしてこうも、ここ最近の夏は暑いのだろう。


矢野森千晶は、長い髪を右肩に流しながら、窓の外を見た。



「千晶ー、ご飯食べよう。」


「あぁ…そうね」


親友の明るく澄んだ声は、暑さを感じさせない。


「千晶、暑そうだね。髪結んであげようか?」


「お願いしてもいいかしら…」


「いいよーもちろん!先に髪結んでからご飯にしようか」


「ありがとう、夏美。」


「いいっていいって!」


私の親友、睦月夏美。

面倒くさがりな私の世話を焼いてくれる、素直で優しい子。


「わぁ、千晶相変わらず髪さらさらだねー。」


「そうかしら…自分ではよくわからないわ」


「さらさらなのに、ウェーブしてて女の子って感じ!」


「夏美はストレートよね。」


「うん、実は扱いにくいんだよねぇこの髪。」


「でも綺麗にまとまっているじゃない。」


「ありがとう。結構努力してるんだよー。

…はいっ!できた!」


「相変わらず早いわね…ありがとう。」


「あはっ、それほどでもー!」


「それじゃあ、手を洗いに行きましょうか。」


「うんうん、そうしよっ。」





『なあ、…………る?』


「えっ?夏美、何か言った?」


「いやー?」


「気のせいかしら」


「え、なになに?」


「何でも無いわ…」


今の声は…何?

夏美の声では無かったわよね。

とすると、あそこで遊んでる男子かしら…

昼休みだし、誰かの声が聞こえるなんて当然よね。


決して自然ではなかったその声だったが、千晶は簡単に忘れようとした。



夏美の結んでくれた髪が、右に左に揺れ動く。



今日のこの小さな出来事は、

明日の暑さでもう 忘れることだろう_

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