味覚強盗はなんとしても捕まえる!妻のために!

ちびまるフォイ

味覚がある幸せ、味覚がないこと

「なにぃ!? 味覚強盗が出ただとぅ!?」


刑事と相棒が現場にいくとすでに味覚強盗は消えていた。

現場には味覚を盗まれた人が横たわっていた。


「大丈夫ですか?」


「味覚が……味覚がなくなって、何を食べても同じ味しかしないんです……」


「先輩、味覚強盗のやつですね」

「ああ。なんとしても捕まえるぞ」


被害者を解放した後で2人は本部に戻った。


本部では次の作戦会議まで昼食をとることに。

味覚強盗への対応でひっぱりだこの2人にとって貴重な休憩時間。


「先輩、愛妻弁当ですか?」


相棒は刑事のお弁当箱をみてほほえましく聞く。


「俺はいいって言ってるけど、妻が作るっていうんだよ。残すと怒られるし」


「新婚はうらやましいですね。食べてもいいです?」


「だ、ダメだ! 絶対にダメだ!」


「ほら。先輩、愛妻弁当を大事にしてるんじゃないですか」


「そういうわけじゃないが……」


穏やかな時間もつかの間、すぐに味覚強盗の連絡が入った。

2人はすぐさま現場に急行するも時すでに遅し。


「ああ……味覚が……なにも感じない……」


「くそ! 今回も遅かったか!!」


まるで自分のことのように悔しがる刑事に相棒は尊敬した。


「先輩。こんなにもこの事件を真剣に探してるんですね。まさに刑事の鏡です!」


「俺の手で捕まえないといけないんだ。絶対に」


「そうですよね、この近くには先輩の奥さんも住んでますし

 味覚強盗に奥さんが襲われる可能性もありますから」


このまま味覚強盗が出てから追いかけても、逃げ足の速い味覚強盗には追いつけない。

そこで刑事と相棒は別の作戦をとることにした。


本部に戻ると、ふたたび味覚強盗の連絡が入った。


「よし引っかかった! 行くぞ!」

「はい! 先輩!」


現場にいくと潜入させていた捜査官が味覚強盗に襲われて味覚を失われていた。


「作戦通りだ。捜査開始するぞ」


刑事は近くのお店に聞き込み調査をはじめる。

けれど聞き込みの内容は犯人の特徴だとかを聞くものではなく、聞くことはただ1点。



「このあたりで、すっぱいものを爆買いしてる人はいませんでしたか?」



この1点のみ。


すっぱいものを爆買いする人はそういないので、あっという間に場所を突き止めた。


「警察だ! 味覚強盗、観念しろ!!」


「くっ! どうして俺の潜入先がばれたんだ!?」


味覚強盗の隠れ家には大量のうめぼしやレモンといったすっぱい食べ物が転がっていた。


「フフフ。お前が盗んだ味覚はこちらの潜入捜査官の味覚だったのさ。

 すっぱいものがめちゃくちゃ食べたくなるだろう? そういう味覚にさせたからな」


「貴様! わざと盗ませたのか!」


「すっぱい食べ物を爆買いする奴など、そういないからな」


「先輩! かっこいいっす!!」


刑事と相棒はついに味覚強盗を捕まえた。

味覚強盗を捕まえて本部に護送すると尋問を行うことに。


「先輩。味覚強盗のこれまでの被害者やら手口やらを聞き出さないとですね」


「尋問は俺だけでやる。あとは任せてくれ」


「先輩……!」


尋問は聞く側も聞かれる側も大変に疲れる仕事。

それを肩代わりしてくれる先輩はなんと優しいのか、と相棒はますます尊敬した。


尋問室で味覚強盗と2人きりになった刑事。

さきに話し始めたのは味覚強盗だった。


「よぉ、それで俺になにを聞くんだ? ん?

 いっておくがてめぇらに手口を教えるつもりはないぜ。

 どんなに拷問しても絶対に教えてやらねぇ」


「そうか」


「え? いいのかよ? 尋問意味ねぇんだぞ?

 だったらどうして、あんなに必死に俺を捕まえたんだよ」


「それより味覚強盗。お前に頼みがある。お前にしかできないことだ」


「な……なんだよ……」



 ・

 ・

 ・


味覚強盗の尋問を終えた刑事は見て分かるほどに上機嫌だった。


「先輩、なんだか嬉しそうですね。有益な情報でも聞けたんですか?」


「いいや。あいつは何も話さなかったよ」


刑事は満面の笑みで愛妻弁当の箸を進めていく。


「先輩。それじゃあどうして嬉しそうなんです?」


「そりゃあ……」


刑事は愛妻弁当をほおばる。




「これからは、妻の料理で苦しむことがなくなったからな!」



味覚を失った刑事はまた嬉しそうに愛妻弁当を食べ進めた。

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