その男、名探偵につき

小高まあな

プロローグ

 世の中では、毎日のように人が殺されている。それは過失かもしれないし、故意かもしれない。

 明日は君が殺されるかもしれないし、君が殺すかもしれない。

 殺人は概ね、衝動的に行われる。

 つまり、ミステリの世界のように壮大なトリックを用いたりしないし、アリバイ作りのために時刻表をじっと見つめている犯人もいない。

 だからこそ、気をつけたほうがいい。

 例えば、君が誰かを殺したくなって、時刻表をじっと見つめることがあったら。

 例えば、周りで連続殺人が起きたら。

 例えば、吹雪によって山荘に閉じ込められたら。

 そのような、ミステリ的なことがあった場合、君は気をつけた方がいい。

 それはヤツが近くにいる証拠。

 一度、彼らの世界に巻き込まれたら無事ではいられない。異様な事態に心を病むか、大切な人を失うか、誰かを殺すか、殺されるか。

 いずれにしても、無傷では済まない。

 ヤツの名前は、名探偵。

 事件を憎み、事件を呼び寄せ、事件を食べて生きながらえている。

 そんな生き物である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る