エピローグ
あれからもう病院には行っていない。
何度行っても面会拒否のままだった。
長くて短かった夏休みが終わった。
夏休みが終わっても、何故か病院に行く気にはなれなかった。
勉強にも、何もかもに力が入らなかった。
「最近元気ないよな」
友達から言われるようになった。
約束していた友達との遠出。
今日が受験前、最後の遠出だと思う。
すごく楽しかったけど、美果の顔が頭から離なれなかった。
夏休みが終わってからどれぐらい経っただろう。
もう葉が色づいてきた。
家に着いた時、携帯の着信音がなった。
今どき電話なんて掛けて来る人がいるとは。
【原田紗奈】
ディスプレイにはそう表示された。
今まで一度も電話を掛けてきた事はないし、喋ったのも連絡先を交換した時が最後だ。
美果が退院したのだろうか。
僕は電話にでた。
「もしもし」
原田さんからの返事はない。
どうしたのかと聞こうとした時、
「美果が亡くなった」
一瞬何を言われてるのか分からなかった。
僕の聞き間違いだと思って聞き直した。
返ってきたのは原田さんの嗚咽だった。
原田さんは泣きながら、美果のお葬式の場所と時間を伝えられ、電話が終わった。
僕は抜け殻みたいになった。
美果が。
信じられなかった。
最後に話した時は元気そうだったのに、僕の前では無理をして、元気そうにしていたのだろうか。
美果お葬式は家族と原田さん、僕を含む数人で執り行われた。
淡々と進められていった。
お葬式が終わった後、美果の家族、原田さん、僕の事を看護師さんが呼び止めた。
それぞれに渡された紙。
美果は看護師さんに、自分が死んだらこれを僕たちに渡すように頼まれていたらしい。
そこには短い手紙と花の絵が描いてあった。
美果のお母さん、原田さんが泣き崩れた。
僕も涙が止まらなかった。
美果は僕との約束を覚えていたのだろうか。
花の絵を描いて欲しい。
最後に会った時の約束。
原田さんが自分の手紙を読んで、ハッと何かに気づいたらしい。
「おばさん、美果の花の辞典今持ってる?」
原田さんは美果のお母さんから花の辞典を借り、ページを捲り始めた。
「どうしたの?」
僕は原田さんが何をしようとしているのか分からなかった。
「前美果が言ってたの。この辞典には花言葉も書いてあって、何回も読んでる内に覚えたって。手紙に書いてあって、さっちゃんなら分かるよねって」
原田さんは途切れ途切れに、でもハッキリと言った。
あった、原田さんが呟いた。
まず、僕たち全員に描いてあったのは
【カキツバタ】
花言葉は【幸せは必ず来る】
美果のお父さんとお母さんに描いてあったのは
【カスミソウ】
花言葉は【無垢の愛・感謝】
原田さんはに描いてあったのは
【ローダンセ】
花言葉は【終わりなき友情】
ひと夏の短い間の事だったけど、僕にはとても大切で、心の深い所に残るだろう。
僕に描いてあったのは
【ピンクの
花言葉は
【あなたを愛しています】
こ、ちょう、らん 梓珠悠茉 @Azumimi_Yuma
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