第5話 「図書館の住人」
来世の主観では十五年が経過していて、改めて見る当時のクラスメートたちは、最初は誰か認識できなかった。ロッカーや名簿から名前を割り出しても、関連するエピソードが思い出せない。
少なくとも、高校まで一緒だった人物はかろうじて面影があり、ぎりぎり記憶が残っている程度だった。
「出席を取るぞー」
さすがに小学生は守備範囲ではない来世は、女の子にすら興味が持てず、なおかつ高校を過ぎたあたりから、小学生以下の子供の相手をするのが嫌だった。
ただ学校に通う「義務」を果たすことしか考えられず、誰から話しかけられても返事は最小限で済ませ、本を読んでいるか、誰ともコミュニケーションを取ることなく日々を過ごした。
そうしている内に、来世に話しかける者はいなくなり、先生ですら苦手意識を持つまでになっていた。
それ以降は、休み時間や放課後は図書館で過ごすようになり、ただ読書をして過ごすだけの日常になった。
社会人となってから、あまり本を読む時間が取れていなかった来世は、喜々として興味のある本を片っ端から読破していった。
「最高」
仕事に追われることなく、あと何年かはこうして本を読んで過ごしていられる。
前回(?)と同じ進路を
教室では靴が隠される、教科書に落書きされる。
これらは些細な問題だった。
ただひとこと、置いてあった場所から消えていて、授業が受けられないと固辞すればいい。それでも受けろと言う教師には、冷静に事情を説明すれば納得してくれる。
こういう所で、教師もきちんとした大人である以上は、融通を利かせてくれる。
来世が納得できない教師の言い分には、顧客対応で鍛えた"正論"で言い返すと、論破されて泣きそうになっていた。
「いじめられる遠野にも、原因があるんじゃないのか?」
「先生、それは加害者の言い分です。確かに、俺にも原因となる行動はあるでしょう。しかし、加害者の『家庭教育』や『情操教育』の問題を無視して、被害者に責任を押し付ける先生の理論には納得できません。そういう子供は、いずれ俺以外にも標的を見つけます。それらを正せなかった保護者、そして、親に代わって道徳を教えるべき場所である学校の教師が
「あ、あ……」
来世は自分でも、もしこんな子供がいたら嫌だと思いつつ、通じるかも怪しい理論で教師を論破する。最近はモンスターペアレントで耐性がある場合もあるが、教師というのは基本的に、言葉の攻撃に慣れていない職業である。
子供を監督したり、休日が少なく勤務時間が長いなど、大変な面は確かにある教師という職業は、しかし、一般の企業とは大変の種類や内容は大きく違う。
「私は……間違っていたのか……」
「先生、安心してください。俺は気にしてませんから」
これをマッチポンプと言うか、自ら責めたてておいて、先生に優しくする。
来世を見る教師の目が、どこか
「……とにかく、俺のことは自分で何とかします」
来世の良心が痛んできたところで、この茶番を切り上げて、逃げるように去っていく。行き先は当然、図書館である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます