「この経験から気が付いたこと」

 いよいよ奏の転校先が決まり、勉強も再開した。集中力はないし、すぐに疲れてしまう。けれども、両親とある約束をしたのだ。うつ病というのはよくなったと思ってもまた翌日には悪くなったり、治ったと思ってもまた再発することのある病気だ。そのため、体調を一番に考えて無理をしないで何事もやっていくこと。だから奏は体調の悪い日は勉強を休んだり、体調の良い日でも休憩を挿みながらやったりした。最初はこれは甘えなのではないかと心配になった。でも、自分の為にも両親の為にも休むことは必要なのだと奏は気付いた。これはうつ病になっていなければ実感できなかったことだろう。

 うつ病になって罰を受けているように苦しかったし、修行をしているように辛かった。今もまだ元気な時の半分のパワーもない。けれど、あのまま勉強だけしていて将来成功できるとは思えないし、休むことの必要性を体が病気で教えてくれたと思う。人生に意味のないことはない。今までずっと綺麗事だと思っていたけれど、少しだけこの言葉の意味が分かった気がする。

 奏は今まで将来の夢が明確には決まっていなかった。でも、この経験を通して、やっと具体的な将来の夢を見つけたのだった。それは精神科医になることだ。うつ病で実際に自殺してしまう患者は残念ながらたくさんいる。奏ももしかしたらその中の一人になっていたかもしれない。でも、こうして生きているのだから、少しでも患者の自殺を止める、患者の気持ちが楽になる方法を一緒に考える。これが自分にできることだと気付いたのだ。

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