生きていくということ

@piano1209

「全てが思い通り」

ーー満開の桜が風に乗って舞散る。両親に挟まれて歩く奏を祝っているようだ。まだ小さい奏の体には大きすぎる真っ赤なランドセルが背負われている。ーー

チリリリン♪チリリリン♪……

「起きなさい、ほら早く。遅刻しちゃうよ。」

はっ!朝だ。今日から高校生だ!って言うか九年前の夢……。私小一だったんだ。懐かしいな。

「奏、早くしなさい。」

「はーい♪パパ、ママおはよう!」

「今日から奏も高校生かー。楽しみだな。」

「パパが楽しみにしてどうするのよ。高校に行くのは奏なんだから♪」

「そう言ってるママも嬉しそうじゃん♪」

今、私達三人は幸せだ。何故なら、今日は家族三人の第一志望校、都立森高校の入学式だからだ。この日のために一年間、頑張って受験を乗り越えてきたのだ。そして、入学式では憧れのMBB(森校ブラスバンド)の演奏も聴ける。楽しみで楽しみで仕方なかった。

 クラスは入試の後に行われる新入生テストの成績によって分けられる。奏はA~H組の八クラスの中でC組だった。進学校の中で、上から八分の三という優秀な生徒が集まるクラスだ。このクラス分けによって、定期テストのクラス内順位で上位を取るのは簡単な様だが、油断するとビリを取る可能性もあるのだ。

  入学式のこの日、元々大人しい上に人見知りな奏は、SNSのクラスのグループに入ることは出来たものの、クラスメイトと直接話すことは出来なかった。今日を楽しみにしていた反面、このような不安もあったのだ。しかし、SNSのクラスのグループでは、入学式から一週間後に始まる仮入部で、MBBに行く人に声をかける人が居て、それに反応する人も五~六人居た。奏は正直、心の中で安心した。初対面の人に声をかけることが出来ない奏は、友達ができるかどうかとても不安だった。それからはMBBの入部を検討しているクラスメイト八人と過ごした。決して自分から話題を振って話すことは出来ないが、八人の中学の吹奏楽部の話を聞いたり、MBBの想像をするだけで幸せな気分になれた。

  仮入部の期間は二週間。その後、部活毎に説明会があり、そこで入部希望用紙が配られる。そして、吹奏楽部にはもう一つ一大イベントがある。それは楽器決めだ。中学での経験者はそのままの楽器の担当になれる。奏も経験者の一人なので、希望通りのクラリネットの担当になった。しかし、これが奏のあの不安が再び襲ってくるきっかけとなってしまうのだった。

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