異世界転生したので武器屋を営むことにした

@shio1202

第1話 ダフネスの村の武器屋

俺がこの村に来て数年になる。


あの時のことはあまり思い出せないが、右も左もわからず行き倒れになりかけていた俺を拾ってくれたラズロ爺さんには感謝している。

その爺さんが先日亡くなった。

俺はせめてもの恩を返そうと、この武器屋を継ぐことにした。


世界は魔王とやらが人類に宣戦布告し、怪物モンスターどもが蔓延っているらしい。

この村は魔王城にやや近く、それなりに強力な怪物が出現する地域だそうだ。

そのため店の品揃えも、冒険に慣れた中級者向けの武器が多い。

戦士用の剣から魔道士用の杖、その他職業用の武器も取り扱っているために仕入れルートも多岐にわたる。

冒険者が安心して冒険するために、仕入れルートの確保も武器屋の大事な仕事だ。


「――でですね。この剣はここからがすげえんですよ」


俺がそんな物思いに耽っている間も目の前の男はぺらぺらと喋り続けている。

村の鍛冶屋のマルクスさんのとこのバカ息子、アルだ。

こいつは先代の時からそうだったが、時々実験と称して作った武器を営業に来る。

大体の場合が二束三文にもならない出来損ないの一発ネタみたいな武器だが。


「ここを……こうして、っと……うわっ!?」


アルが剣の柄のレバーのようなものを引くと、勢い良く刀身が飛び出し、あらぬ方向に飛んでいった。

今日の作品もどうやら失敗作のようだ。


「……あのな。お前は毎回毎回営業妨害に来てんのか。見ろ。壁に掛かってた火炎樹の杖に傷が入っちまった。もう少しズレてたら売りモンにならなくなるところだ」

「す、すまねえっす……畜生、今回はイケると思ったんだけどな……」

「そもそもそれ成功してたら俺が死んでただろうが」

「……け、結果オーライっすね!」


マルクスさんは腕のいい鍛冶職人で、少々頑固なところもあるが定期的に良質な汎用武器を入荷してくれるお得意さんだ。

その息子はというとそんな親父さんに反発して変な武器ばかりを作っているようだ。

時々使えるものも作ってくるが。

(そういえば以前気まぐれに店頭に置いておいた「伸びる剣・モノホシザオ(俺が命名した)」は道具屋の娘が薬草取りに便利と買っていった)


「あのな、お前発想はいいんだけどもうちょっと基礎をしっかりしろよ。使う人間の気持ちを考えろ。例えば今回のやつ、剣よりもナイフくらいの大きさのほうが安定するし取り回しもしやすいだろ」

「そ、そう言われてみれば」


俺の記憶ではその武器はスペツナズ・ナイフと呼ばれている。

元いた世界の知識を使ってこの世界の武器を発展させるのはどうかと思うが、まあこれくらいなら問題はないだろう。

……たぶん。


「……なるほど。ありがとうございますサトルさん!ちょっとやってみます!」

「おう。おやっさんに怒られん程度にな」


俺の名はサトル。

異世界に転生したので、ゆっくり余生を過ごそうと思う。

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