私の話を聞いてください②
けものフレンズ大好き
私の話を聞いてください②
皆さんは廃課金者という言葉をご存じですか?
簡単に言うと、ソーシャルゲームに生活を破滅させるほどのお金を投入する人達のことです。
もちろん僕はそこまではしません。とあるソーシャルゲームをしていますが、月に1000円使うかどうかで、あくまで暇つぶしにしている程度です。
しかし世の中には一定数の廃課金者がいて、彼らがそのゲームの運営費を支えているのは間違いありません。
僕のそばにも、ちょうどそんな人間がいました。
今回はお話したいのはそんな人間達のことです。
当時は霊的なものはあまり関係ないと思っていましたが、今改めて思ってみると、常識では説明出来ない超常的な何かが作用していたのかもしれません。そうでなければ説明ができないほどの執着でした。
今彼らと同じような生活をしている人のためにも、僕はどうしても聞いて貰いたいんです……。
あれは晩夏、それとも初秋の頃だったでしょうか。
一身上の都合でLINEが使えなくなった僕は、暇つぶしに流行のソーシャルゲームを良くやるようになりました。
ソーシャルゲームはご存じの通り時間か金のどちらかを使ったプレーヤーが優位に立ち、その頃暇な大学生だった僕には前者が唸るほどありました。
とはいえ、あくまで暇つぶしでそこまで没頭していたわけでもありません。僕には他に好きな物もありましたから。
ただ、時間を使って結果が出始めるようになると、次第に自分にどれほどの実力があるのか気になります。
実力と言っても、一人用RPGのゲームですから実際の腕ではなく、イベントにおいての実績がそれになります。
今回のイベント内容を踏まえて具体的に言うと、イベント中にとあるモンスターを倒すと、そのモンスターの数に応じてアイテムがもらえ、またモンスターを倒したプレーヤーのランキングが発表されます。そのランキングが実力の証明というわけです。
そのゲームは100万人以上のユーザー数を誇り、片手間に少しの課金でプレーしている僕程度では、せいぜい1万人以内に入れるかどうかという感じでした。
それでも以前よりは遙かに順位が上がったので、自分なりに喜んでいたのですが、意外なところにそのはるか上がいました。
彼の名はF君。
彼とは事が始まる前も終わってからも全く面識はありません。
彼の話は全て友達のGさん経由で、僕にとっては彼女の方が重要な存在でした。
Gさんは社交的な噂好きの女子大生で、大学内のあれやこれやにとても精通していました。
そんなGさんと知り合うきっかけになり、またF君のことを知るきっかけになったのは、まさにその時ボクがしていたゲームでした。
僕が授業の合間に教室に残ってスマホでゲームをしていると、彼女から話しかけてきたのです。
曰く、ゲームで分からないところがあるから教えて欲しいと。
生粋のオタクですが、女性に対してそこまで抵抗がない僕は素直に教え、そこからF君の話に発展したのです。
Gさんによると、本当はF君に聞こうと思ったのだが、最近学校で姿を見ないので僕に聞いたということでした。
僕がF君はそんなにすごいのかと尋ねると、Gさんは質問には答えず件のランキングを見るようにいいました。
言われたとおりにすると、そのトップテンの2番目がF君ということを教えてくれました。
僕は心の底から驚きました。
それと同時に、いったいいくら課金したのかと呆れもしました。規模が大きいゲームですから、数万円レベルの課金ではとてもこの順位にはいられません。
そんな僕の内心を悟ったのか、GさんはF君について詳しく話してくれました。
F君はハーフで、外人の父親は外国の投資グループの重役ということでした。家には唸るほど金があるそうですが、誘拐の心配からF君は家の中にいることが多く、自然とソーシャルゲームに没頭するようになったそうです。ちなみに登校していたときには、必ずボディーガードと取り巻きを連れてくるという話でした。
F君は親の金にものを言わせて、このゲームではイベントのたびに必ず上位に顔を出すようになっていました。「月100万はくだらないかしら……」と具体的な金額を聞いて、僕は感心するよりも呆れました。
そして、そのF君が最近大学に来なくなったのですが、その理由も教えてくれました。
F君は確かにランキング上位ではありますが、1位になったことはありません。
理由は簡単、上には上がいたからです。
今まで行われたあらゆるイベントにおいて、常に《Legion》というユーザーがトップに君臨し続けていました。このゲームをしている人間で《Legion》を知らない奴は潜りだと言われるぐらい、有名なプレーヤーです。
F君の財力をもってしても、どうしても《Legion》には勝てないのです。
しかも《Legion》は普通の勝ち方はしません。
必ず2位に僅差で勝利するのです。
今回のモンスター討伐は中間発表もされるのですが、《Legion》必ずF君より1匹多くモンスターを倒していました。
正直ここまであからさまだと、僕としても不正を疑わずにはいられません。
ランキングでもらえるアイテムは10位以内という括りなので、1位も2位も実質的には変わらないのですが、気分はよくありません。
それはF君にとってはなおさらで、意地でも1位を取ってやろうとゲームにのめり込んだため登校しなくなったのだと、あくまで噂と前置きしてGさんは教えてくれました。
僕はそんなものかと話半分で聞き流し、この時の話はこれで終わりました。
それから数日だったある日、Gさんが僕に血相変えて話しかけてきました。
F君がとうとうとんでもないことをした、と。
これはGさんがその場に居合わせたF君の取り巻き連中から聞いた話だから、まず間違いないと前置きして言いました。
いつまで経っても1位が取れないことに業を煮やしたF君は、ついに運営会社に直接クレームを入れました。
しかし運営会社は通り一辺倒の態度で要領を得ません。
そこでF君は金持ちならではの強引な手段を取る事にしました。
運営会社社員の買収です。
本来顧客情報は厳守されるものなのですが、それを管理するプログラマーは絶対的な存在ではありません。薄給の上激務で働かされ、仕事に対する忠誠心などかけらもありませんから、多少の金で簡単に《Legion》の情報を渡したそうです。
そこからあらゆる手を使って《Legion》の住所を割り当てたF君は、取り巻き連中と一緒に直接会いに行きました。
目的は当然今回のイベントに力を抜くよう説得するためでした。
Gさんの話によると、基本は買収で、それでも首を縦に振らなければ取り巻き達による実力行使も考えていたそうです。
しかし、そのどちらも起こりませんでした。
以下その時の僕とGさんとの会話です。
「どうして?」
「それが《Legion》っていうのはそもそも一人じゃなかったのよ」
「あー、何人かが協力体制でやってたんだ。じゃあ向こうの人数が思ったより多かったんだね」
「ううん。そういう問題じゃなくて、集団でありながらほとんど一人の人間だったのよ!」
「え、ごめん、意味が分からない」
「だから何人かの人間が狭い部屋に固まって……というか絡み合って、まるで人間団子のような状態でゲームをしていたの。排泄物は垂れ流し、必要な資金はプレーしてない別の誰かがネット稼いで、ただゲームを効率よくプレーするためだけの生物になっていたんだって」
「なんだよそれ……」
「なんか、元々はいろんなゲームのトッププレーヤーが、効率的にそれぞれのゲームをするために合宿みたいな感じで集まったらしいんだけど、効率化がいきすぎて最終的に人間を止めることが最も効率よくプレー出来るという結論に至ったとか。お金の先は人間性の投資なのかしらね」
「・・・・・・」
僕はその話を聞いて背筋が凍り付きました。
そこまでしないとトップになれない、ソーシャルゲームの業の深さに。
そして、そこまでしてもトップになりたいという人間の業の深さに。
最後にGさんはこう言いました。
「それ以来、F君もそのゲームから足を洗ったみたい。ただそれにも拘わらずF君は学校に来なくなったのよね。取り巻き連中は
〈了〉
私の話を聞いてください② けものフレンズ大好き @zvonimir1968
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