第15話 な

 安穏な空気が漂っていた室内に……室内の様子


「死んだ方が良いよ……西田。お前はよ」

 静かに言い切る営業一課長の小野田。その顔を見返す事も出来ずに、入社半年の西田伸一が俯いたまま声もなく頷く。


 ワンフロアの店内。パーテーションで仕切られただけのエリア。村野と西田が二人で項垂れテーブルに座る小野田課長に叱責されている


売り上げを伸ばさなければ先は無いと迫られている


どんな手を使っても売り上げを上げる事だけを考えろと


事実、村野が勤める会社の経営は上手くなかった


トップがワンマンな為に

各部署には無理難題が押し付けられ、中間管理職の連中は部下にそれらを丸投げして難を逃れようと躍起になっていた


村野は社を出ると、公園で何をするでもなく昼迄遣り過ごし、昼飯を掻き込むとサラ金に足を向けた


限度額迄きたカードを使い僅かな金額を引き出す


それを握り競艇場に向かう


溶かした額など覚えてはいなかった


勝てば、架空の契約をでっち上げ


負ければ、課長の叱責を受けるだけだ


家庭を失い、仕事に疲れた村野は、既に自分が何のために働いているのかさえ見失っていた



ある日、村野は競艇で出会った怪しい男に儲け話を持ち掛けられる


信じられない金額で秘密を守る仕事だとだけ教えられ

その場に出向いてしまう


そこでは、死んだように佇む二人の男と明らかにテンションの異常な男に、仕事場だと教えられたマンションに連れていかれる


マンションの室内


女の死体


死んだようにしていた男達が用意していた道具をじゅんびする


その間に、テンションの異常な男が女の死体を死姦する


茫然自失となる村野


構わず準備する二人と犯し続ける男


突如、叫び出す村野


「誰が何故?何のために?女を殺した?そして、あんた達は何の為にここにきた?」


だが、誰もそれには答えない


突然に訪れた強烈な嘔吐感


村野は吐瀉物を撒き散らす


それを怒鳴り散らす犯す男


やがて、男は事を終えると二人が用意した道具を村野に宛がう


死体を解体しろと迫る


出来ないと抗う村野にやらなければ殺すと脅す犯す男


村野が殴られ蹴られている間に淡々と処理を進める二人


解体され切り分けられた死体はクリーニング屋にあるような台車で運び出される


村野は吐瀉するだけで何一つ処理出来なかったが、マンションを出たときに犯す男から最初は誰も仕事はできないと告げられ現金を握らせられる


数日間、会社にも出れないほど倦怠感と虚無感にとりつかれた


だが、実際に目の前で起こっていた事が事実だったのか、白昼夢のようなものだったのかは、手にした金が有るだけでは認識出来なかった


その金もギャンブルで次第に溶けて消えた


残されたのは女の死体、解体された肢体、生を失った肉体が凌辱される様


だが、それを密告する勇気もない


村野の感情は繰り返し反芻されるそれらの記憶に少しずつ確実に侵されていく


そんな中、離婚調停中の妻から長男の素行が悪く何度も警察や学校に呼び出されている事実を聞く


長男を少年院にやらない為には金がいると告げられる


妻の浮気発覚から、それでも尚息子を妻に奪われた絶望が甦る


出来る事なら妻と間男を殴り殺して息子達を取り戻したいと願う


だが、現実にそんな事が出来る勇気はない


息子に逢う勇気すら無い


だが、交錯した思いの中で、村野は妻に金の事と、息子の事は任せろと断言してしまう

後日、村野は妻には隠れて息子と面談する


素行が悪いと訊いていた息子に変化は見られない


それよりも、話を聞くうちに妻と間男からの虐待を知る


妻と間男は息子達を虐待している


村野は長男に一緒に暮らすことを提案するが、自分達が居なくなると三男の虐待が加速すると断られる


そこに、犯す男からの電話が鳴り響く


躊躇いながら通話ボタンを押す村野


「二度目の仕事だ」


犯す男は当たり前の様に、場所と時間を告げて電話を切った


指定された場所に向かう村野


息子とは週末に再度、会って話をする約束をした


現場に着くと犯す男と死んだような目の男が一人


村野は犯す男の指示に従い室内を目指す


甦る凄惨な現場


だが、込み上げる嘔吐感と同時に心の奥にザワツク何かを感じる村野


室内に着くと、やはり前回と同じく女の死体


当たり前の様に嬉々として死体を凌辱する男と、道具を準備し始める男


再現される現場に、軽い嘔吐感を覚えた村野だったが吐瀉物を撒き散らす事はない


今度は間近で解体され行く死体を眺める余裕さえある


家畜の様に、捌かれてバラバラに成り行く死体


嘔吐感は消えては居ないが何かが少しずつ変わっていることを実感として感じる


「もう一人の男はどうした?」


他愛ない質問も発する事が出来る


「アイツはもう現れない」


犯す男が作業しながら答える


ころしたのか、逃げたのか、


それは、何のために?だがそれを聞き返す事もない


村野は、ただ、その後淡々と解体を進める男達を黙って見詰め続けた


そして最後は台車に乗せられた肉塊を運び出しワゴン車の荷台に積み込む作業を手伝った


村野は最後まで吐かなかった


「今回からは、一人減ったから、取り分は増える。良かったな。次回からはキチンと仕事しろよ」


犯す男が言いながら金を出す村野はひったくる様にその金を受け取り握り締めた


後日、妻と間男が住むマンションを訪ねる村野


子供達を引き取りたいと申し出るが、金だけが必要で子供達は母親と暮らすことが最善なのだと、妻はまったく取り合う事がない


村野は息子から聞いた事実を妻に突き付けるがそれすら全く聴こうとはしない


仕方なく、直接息子と話をさせてくれと強引に息子を探すが見付けた三男は暴行の跡がはっきり確認できる程に憔悴仕切っていた


それを見て、激昂する村野


だが、逆に妻の間男に暴行を受ける


意識を失いかける村野をかばう息子と、間男を更にけしかける妻


気が付いた時には、村野は妻の住まいから投げ出されていた


車に戻り嗚咽号泣する村野


後日、村野は渋滞した市街地を顧客との面談の為に走っていた


村野が、信号待ちで隣に並んだ車を無意識に覗く


汚れた軽自動車の助手席の男と目が合う


チンピラ禅とした男の目が尖る


だが、村野が視線を逸らす事はない


交差する車線上の車が走り出す


流れる車の列


暫く二人の視線は交差する


だが、チンピラが隣の男に話し掛け、村野の視線から逃げる


村野は車から視線をそらしていない


信号が変わり後部の車輌からクラクションが鳴り響く


村野は腕時計を確認すると慌てて車を発進させる


現場についてヘルメットを被る村野


足場を上がると屋上階にいる監督に媚びて頭を下げる村野

時間を守れない営業とは仕事はできないと嘲笑される村野

平謝りを繰り返すが結局、契約を結べずに帰社する


個人経営に毛が生えたような建設機械のリース屋


社長から罵られる村野だが、感情は何処にあるのか所在不明に見える


怒りが空回りし出した社長は村野を罵倒しながら帰宅した


帰宅する村野


自宅には誰も居ない


神経質に揃えられた家具や家電の中に座り込む村野


テレビのスイッチを入れるが画面が写ることはない


そこに、NHKの集金人が訪問する


受信料は税金なんかと訊ねる村野


集金人はマニュアルに従いその問いに答える


村野は黙ってそれを一通り聞くと財布から金を出す


集金人は手続きを淡々と終えると玄関のドアを閉める


玄関ドアを見詰める村野


静かにドアに耳を当てる


気配を窺うが既に集金人は居ない


そこに、携帯の呼び出しが鳴る


室内にとってかえす村野


電話の通知は永山興行とある

村野は一瞬、ほんの僅かに躊躇った後で通話ボタンを押す


「明日、2時に産業道路沿いのゴールドに来る賓崎さんから話を訊いてくれ」


短く伝えると電話は切れる


村野は携帯を置くと映像の無いテレビ画面を観ながら膝を抱え込むようにして眠りに着く


翌日、出社した村野は上司に業績の件で叱責されると

「殺すぞ」と呟き

上司を睨み付ける


様子の変化に恐れを抱いた上司はそれ以上の叱責をやめる


村野はそのまま退社し賓崎に会いに行く






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る