保守的主人公の異世界見聞録

創士狼

保守的冒険者になるまで

第1話  プロローグ

「ん~よく寝た。良い天気、絶好の訓練日和だ。」


朝陽が窓から射し込む部屋、周りの寝ている子達を起こさない様に備え付けの梯子で下に降りる。降りた先で朝食を作っている女性が此方に気付いて振り向いた。


「エレナ先生、おはようございます。」


「あら、おはようシシオウ。今日も早いわね、いつもの走り込み?」


「はいっそうです、朝食迄には帰ってきます。」


「大丈夫だと思うけど、気をつけて行ってらっしゃい。」


「はい、では行ってきます。」


エレナ先生とのいつもの会話をして日課である特殊な走り込みを始める。もうかれこれ10年以上は続けているからか孤児院の裏にある門から出て折り返し地点になってる山の山頂までは直ぐに辿り着く。


「此処からが本番っと。」


「よっ」と声を出し逆立ちできた道を何事も無く帰る。仮に今日誰かと走っていたなら異常だと言われるだろう……いや、例外無くこの世界の住人には間違いなく言われる……「なぜ、魔物に襲われない」と。


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時は少し遡る。


パンッ!パンッ!パンッ!

ある倉庫の一角で薬莢の乾いた音が闇夜に鳴り響く。


「いやいやいや何で当たらないんだよ!?おかしいだろ!?」


そう、今まで放たれた弾丸30発近くを何の苦もなく軌道を読んで避けて見せてた。


「別におかしく無いですよ?私、産まれながらに目が見えないので他の感覚が鋭いんですよ。だから、音とか風の流れとかで大体分かるんです。因みにそれに合わせて動ける様に体も鍛えてますよ。」


盲目の男は目の前に居るであろう拳銃を構える暗殺者に笑顔でサムズアップする。


「いやいや噂通りの化け物だな獅子王さん、俺はこれでも裏の稼業では結構自信が有ったんだがあんたを相手にすると井の中の蛙だったと思わされるよ。」


「お褒めに預かり光栄です。で、どうします?まだやります?」


「俺も暗殺者の端くれ受けた仕事は最後までやるさ、だから死ぬまで付き合ってくれよ。」


「わかりました、貴方は自分の仕事に誇りを持っておられるのですね。でわ、私も誠心誠意込めてお付き合いさせて頂きます。」


「ありがとよ、お礼に最後ぐらい名乗らせて貰うよ。暗殺者、雲雀(ひばり)。」


「ひばりさんに敬意を表して【獅子王流体術】始祖、獅子王……」


名乗ってる最中、何らかの衝撃を受け意識を手離した。


「……お……ろ……おき……そろ……じ……ない。」


図太い声が聞こえる、おそらく男性の声だろう。気絶していたのか、次第に意識がはっきりとしてきた。


「そろそろ起きろ時間がない。」


「う……」


ゆっくりと身体を起こし身体の状態を手で確かめながら声の方へ顔を向ける。


「ようやく起きたか。此方の都合で申し訳無いが時間が無いので今の現状を手短に話す。」


無言で頷く、何が有って意識を手離したのか?今何が自分に起こっているのか?現状の情報が少しでも欲しい。


「現状を説明する為に先ずは謝らせて欲しい。本当にすまなかった、我らの闘いに巻き込んでしまいそのせいで命を失った事を。」


ん?巻き込まれたのは百歩譲って仕方がないとしよう只、言葉のすごいワードが出てきた気がするのだが確認の為に聞いてみるとしよう。


「失礼ですが貴方は何処の誰か存じ上げませんので自己紹介と、申し訳無いですが先に確認したい、私は死んだのですか?」


「我としたことが申し訳無い。我は堕天神ベルゼ、神と悪魔に敗れた者だ。その闘いに巻き込まれお前……いや、獅子王は死んだのだ。」


「そうなんですね。死んだのですか、では此処は死後の世界と言う所ですか?」


「ち、違うが、獅子王よ我が言う事では無いが順応が余りにも早いと思うのだが。」


「私は基本的にNOと言えない日本人なので、成ってしまった事はウジウジせずに全て受け入れる事にしています。後、時間が無いのでは?今から口を挟まずに聞いて受け入れますのでどうぞ御願いします。」


笑顔で両手を広げ受け入れ体制をとってみた。それを見た堕天神ベルゼは少し後退りし引いた声で喋り始めた。


「で、ではまず巻き込んだ謝罪として獅子王を別の世界、俗に言う異世界に転生させたいと考えておる。そして地球と違う所は魔物が居り魔法が使える、その世界の名をアルストロと言う。」


異世界?魔法?よくわかりません。一つ分かることは転生つまりもう一度やり直せる事だ。この受け身な性格を憧れの攻める性格に出来るかもしれない。


「異世界に転生するにあたり贈り物をしようと思うのだが何がよい?」


「先に質問がそれはどんな物でも宜しいのでしょうか?」


「我も堕天神、可能な限り要望は聞くとしよう。しかし早くしてくれると助かる、我は敗れ今まさに封じられようとしておる。この状態もかなり苦しい。」


「分かりました、では、まず生前の身体能力をそのまま持っていきたいのですが可能ですか?あと、全く知らない世界に行くので助けてくれる何かが有れば御願いします。それだけで良いです。」


「我が言うのもどうかと思うが欲がないの。先ほどの答えだが、本来転生は産まれた状態からなのだが生前の身体能力をトレースする為、三歳児からとなり孤児となるがいいか?」


「それで結構です。」


「助けだが新しい獅子王の身体に我の一部を植え付ける事にする、丁度眼が見えぬようなので我の眼を与えるとしよう。それで構わぬか。」


「充分です。」


「では、改めて此度は本当に申し訳無かった。新しき生ではよき人生を歩むがよい。」


そう言うと同時に意識が遠退いていく。


「願わくば我の封印を……」


最後に声が聞こえた気がした。


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《起きて下さい、シシオウ様》


「誰だ…?それにここは……?」


産まれて初めて眼を開けた先には晴天の空、眼に見える限り雲一つないスカイブルー自然と頬を伝う雫、感動の余り声がでない。そして堕天神の言っていたことが真実だったと今更ながら思う。

だが、ゆっくり感動に浸る間もなく頭に声が鳴り響く。


《感動に浸ってるとこ申し訳ありません。早急に自己紹介と現状説明をさせて頂きます。転生早々に凄く不味い事態に成りかねません、最悪早々に命を落とす可能性があります。》


よし、どんなことでも来い全て受け入れてやる。そしてこの受け身な性格を変えてやる。


《あっ思ってる事全部伝わりますから、私と会話する際は思い浮かべるだけで出来ます。まず私の名前はベル、左右の眼の管理とこれからの生活のサポートをさせて頂きます。左右の眼ですが、右は全てを見透し左は魔力の吸収が主な能力です。》


なるほど、左右で能力が違うわけだ。


《魔力などの説明は後程ゆっくり致しますので今はこの状況を何とか打破しなければなりません。まず現在地ですが迷いの森の中心部です。此所より北に半日ほど進めば森を抜けて街に出る事ができます。問題は、その北から魔物が十体近付いてることです。》


成る程、北から魔物……要するに敵が来てる訳かそしてベルが問題視してると言う事は相手は此方に気付いてる、と言うことは下手に逃げても追い掛けられる。それにわざわざ向こうから来てくれるなら此所で待とう、丁度開けた場所だし下手に見通しの悪い場所よりはマシだ。


《シシオウ様が宜しいのであれは何も言いません、ですが勝てる見込みがお有りなのでしょうか?仮にも今のシシオウ様は三歳児です。》


たぶん問題ないと思う、魔物が気配察知範囲に入ってきたがたいした殺気も無い。堕天神が確実にトレースをしていたならまず間違いなく勝てる。


《それでは、その言葉を信じて異世界初戦闘のお手並み拝見させて頂きます。因みに魔物はクレイジーウルフ、アルストロではランクCの魔物で常に七体以上で行動しております。》


ガサッ……前の茂みが動く、三体のクレイジーウルフが飛び掛かってきた。飛び掛かる前の僅かな音でタイミングを計り、小さな身体を利用してしゃがんで避ける。


クレイジーウルフも馬鹿では無いようで飛び掛かると同時に他のウルフ達で取り囲む。端から見れば十体のクレイジーウルフに取り囲まれてる三歳児どう考えても絶体絶命である。


だがシシオウに限って言えば完全に悪手である。シシオウが始祖の【獅子王流体術】は発勁や各武術、合気道や太極拳を中心とした受け身技を極めており、対多人数では多いに発揮する。


「「「「ぐるぅぅ……ぐるぅ……うぅぅ」」」」


喉を鳴らしうっすら開けた口の端から涎が溢れだし今か今かと襲い掛かるタイミングを計っている。

肝心の三歳児シシオウは平然な様子で軽く悪い笑顔を浮かべてる。


「さっさと来いよ……狼ども!」


辺りが冷たくなる程の殺気が無差別に飛んでいく、とても三歳児から発せられるレベルではない。

殺気と緊張に野生の本能が耐えきれずクレイジーウルフはバラバラに向かってくる。


「魔物と言っても所詮は狼か。」


鋭く尖った爪で小さき命を散らさんと背中から飛び掛かった一体。まさに爪の先がうなじに届くほぼ零距離、貫いたのは前方から飛び掛かった同胞の首もと。


「グルゥ…?ぐがぁ!」


前方の同胞の爪が自らも貫いていたがそんな事も知るよしも無く二体は絶命する。他のクレイジーウルフもほぼ同様の形で絶命している。


《お見事で御座います。相手の力を利用し的確に力の流れを別方向に向け同士討ちさせる、流石は受け身を極めし者で御座います。シシオウ様のお力を少しでも疑った私が愚か者で御座います。》


気にしなくても良いよ、こんな子供に倒せるなんて普通は思わないからね。それにしても異世界の魔物も大したこと無いな。


《それはシシオウ様だからこそです、この世界ではCランク冒険者が三人でようやく倒せるレベルで御座います。》


なるほど、この世界の戦闘レベルはそこまで高く無いのか。


《左様で御座います。では、歩きながらこの世界の事を詳しく説明させて頂きます。気になる事、質問などはいつでも仰って下さいませ。それと一つ私から質問させていただいても宜しいでしょうか?》


構わないよ何でも聞いてくれ、例えどんな質問でも答えるよ。


《では失礼して、シシオウ様は戦闘の時と普段の時話し方が変わりますがどうしてでしょうか?それと戦闘の時若干攻撃的な性格になりますのにご自身からお攻めにならずに何故受け身技に徹するのでしょうか?》


話し方に関しては向けられる殺気に反応してしまうみたい、性格は……攻撃的にしたい気持ちが出てるからかな。でも、もし自分から攻撃して失敗したらどうしようや自分の攻撃は通じるのだろうか等考えて結局確実な受け身技に頼ってしまうんだよ。


《左様でございますね、要約すると気持ちだけが先行してるが実行出来る力が有るのに行動に移せないチキ……保守的な性格と言う事で御座いますね。納得致しました、その辺りも含めてサポートさせて頂きますのでどうぞ宜しくお願いいたします。》


ベルさん?今、絶対にチキンて言おうとしましたよね?若干、毒が見え隠れするのですが……はぁ、知らない世界に一人で居るよりは心強い味方が居てる方がずっと良いか。


改めてベル、世界をこの眼で観る為に性格を変える為に力を貸して欲しい今後とも宜しく頼みます。それと……


《はい、シシオウ様お手伝いさせて頂きます。それと…?》


保守的でどうもスミマセン。

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