この小説が低評価なのもすべての責任はコイツのせい

ちびまるフォイ

このあらいを作ったのはだれだぁ!責任者でてこい!

外で煙草を吸っていると貼り紙が目に入った。


『責任アルバイト 人員募集中!!』


「責任アルバイト……? なんだろう」


興味を引かれたのと高い時給に誘われて応募してみた。

毎日買っているたばこだって安くはつかない。


バイト先にいくと、指定されたのはとあるオフィスだった。


「ここでバイト? なんかイメージわかないな」


スーツを着た社員にすれ違いながら指定場所に向かう。

到着したのはますます場違いな会議室だった。何度見比べても場所は合っている。


中に入ると、若手社員が必死に謝り倒しているさなかだった。


「大変申し訳ございません! 今回の失敗のすべてはこいつにあります!」


「お、俺!?」


来るなり指さされた。

いやいや、ここの仕事すらわかんないし。


「私が仕事で小さな誤入力をしてしまい、謝って発注数を一桁間違えたのも

 すべての責任はこの男にあります!!!」


「えええええええ」


「君、いったいどう責任をとるつもりだね」


「す、すみません……」


責任を取るも何もできないので謝り倒してその場は終わった。


「いやぁ、助かったよ。はい、バイト代」


「これが責任バイトか……」


若手社員からバイト代をもらってやっと内容がわかった。

まったく関係ない誰かの責任を肩代わりする仕事なんだろう。


ものすごくストレスたまりそうだ。

高時給の理由がなんとなくわかった。


ケータイには次のバイト先が示された。




「妊娠しちゃったじゃない! どう責任取るのよ!」

「お客様に迷惑かけて……貴様、責任取れよ!!」

「失敗したら責任はすべてこいつです! だからみんな挑戦を恐れるな!」


バイト先へ向かうと理不尽なことで怒られたり責任を取らされる。

とはいえ、俺は事情もなにも知らないので、謝るしかできない。


最初こそストレスを感じていたが、

心を無にしてハイハイ謝っておけばお金がもらえる楽な仕事だと気付いた。


「みんな責任責任いってるけど、ようは単に謝ってほしいだけなんだな。ちょろいもんだ」


バイト代で稼いだ大量のお金はいくらタバコを買い続けてもお釣りが来た。

もう責任代行のエキスパートといえる。


「さて、次の金の回収先はっと」


ケータイでバイト先を確認して、責任を取りに行った。

場所はよく近くで煙草を吸いに行くラーメン屋。



「どう責任取ってくれるんだ!!」


「すべての責任はこいつにあります!」


さっそく名指しされたのでいつも通り、すまなそうな顔で謝る。


「すみません、本当にすみません。今後は気を付けます……」


「お前、自分にどんな責任があるのかわかってるのか?」


「え?」


しまった。責任の内容なんて興味なかった。責任とりゃいいかと思ってた。


「全部の責任を取るべき人間がいなくなった責任をお前がとるんだよ!」


「え、ええ!? どういうこと!?」


責任者が逃げ出した責任を俺が肩代わりするのか。


「どう責任取るんだ! 謝って許されることじゃないぞ」


「お金を支払いますっ」

「そうじゃないだろ!!」


「ええと、じゃあ辞任します」

「政治家みたいな責任の取り方するな!」


「責任をとって、指を詰めるとか……?」

「やくざか!!!」



「どう責任取ればいいんですか!」


「そんなこと自分で考えろ!!」


「教えてくれなきゃ責任もなにもないでしょう!?」


責任をとるっていったいなんなんだ。

俺が死ねば解決するってことでもなさそうだ。


こうなれば逃げるしかない。


「コラ――! 逃げるな――!」


声が聞こえなくなるほど遠くへ逃げてから次のバイト先へ向かった。


「やれやれ災難だった。あのままじゃどうしようもなかったな」


今度のバイト先は一軒家でニートの部屋だった。


「お前ぇ、どう責任取るつもりだ! コラ!!!」


「すみません。ごめんなさい。申し訳ございません」


「責任者が逃げたことの責任を負う責任をとるバイトが逃げたせいで

 ラーメンの出前が来なくなって昼飯食べれなくなったから

 オンゲーのギルド戦どころじゃなくなって負けた責任どうとるんだ!!」


「えええええ! 知らないよ!!」


さっきの責任がこっちまで影響してるなんて。


「謝って済む問題じゃないからな!」


「じゃあどうすればいいですか」


「そんなの自分で考えろ!」


「またかよ!!」


再びバイト場所から俺は逃走した。どうしてこうはずれ現場ばかり当たるんだ。

次のバイト先に向かうとすでに修羅場と化していた。


「遅い!! なにやってたのよ! あなたが責任者ね!!」


「え、ええ……まぁ」


「責任者がいないことへの責任をとるバイトが逃げたことで

 ラーメンの出前が滞ってギルド戦に負けた彼氏が機嫌悪くなって

 ほかの女に浮気した責任はあなたがとるのよね!!」


「ちょっと待って! 彼の会社の仕事の責任を別の人がとったために

 彼氏が会社で信用を失って癒しを求めて私になびいた結果

 結婚の約束をとりつけたのに自称彼女に詰め寄られる責任もあなたのせいよ!」



「はいぃぃ!?」


彼女と浮気相手の責任をダブルで取らされることに。

責任の責任の責任ってもう俺関係ないじゃないか。


「「 どう責任とるのよ!!! 」」


「お金はらって、謝罪して、指詰めて、首つって、辞任します!」


「「 そういう問題じゃないわ! ちゃんと責任とって! 」」


「どうすりゃいいんだよぉ!!!」



いくつもの責任が積もり積もってもう責任をとるレベルじゃない。



「そ、そうだ! 責任のもとをたどろう!!

 最初の責任はきっと小さなものだったはずだ!!」


今は雪だるま式に責任がふくれあがっているが、

一番最初の責任は平謝りだけで済む小さな責任だったはず。


最初の責任をとりさえすれば、全部解決されるはずだ。


ラーメン屋の責任者が逃げた責任も。

ニートがギルド戦で負けた責任も。

浮気された彼女の彼氏の責任も。

浮気した男の責任も。


もとは1つの責任だったはず。

俺は最初のラーメン屋に戻った。


「てめぇ! 責任もとらずにどこへ逃げてやがった!!!」


「ちがいます! 責任をとるために戻って来たんです!」


「ほほぅ、じゃあ責任とってもらおうじゃねぇか!」


「責任をとって、すべての問題を解決します。これが俺なりの責任の取り方です」


「どうやって解決するんだよ」


「責任の元をたどれば、責任をとるべき人間がわかります。

 責任の源を特定して謝罪させます」


完璧なプランを店主に話した。

責任とれとれとうるさかった店主もこれには納得。


「全部の責任をとるべき人間がいなくなった責任をとる前に、

 その「全部の責任」を教えてください。


 そいつをとっちめて、最大級で完璧な責任をとらせますから」



「実はな、誰かがこの店に火を付けやがったんだ。ふざけやがって。

 でもそいつは現場かから逃げたから責任も取れないんだ」


「とんでもない奴ですね。現場を見せてください。

 かならず完全な責任をとらせますから」


「こっちだ。ここで放火しやがったんだ」


店主は喫煙所にもなっているラーメン屋の裏側へ案内した。

燃えて残骸になったゴミ袋の近くには不始末のタバコが落ちていた。



「火のついたタバコを放置しやがった奴がいるんだ。許せねぇ」



そのタバコは責任バイトを見たときに捨てた、俺のタバコだった。


「で、あんた。この場から消えた責任者にちゃんと責任とらせろよ」


「……はい! もちろんです!!」


快く返事をしたコンマ数秒のうちに、責任バイトを呼びつけた。



「俺のタバコの不始末で店に火をつけた全責任は……こいつにあります!!!」

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