デビルストーカー
長良 エイト
救世主は悪魔
物心ついた時から
今私の目の前にいる三人組は、どこからどう見ても興人とは真逆の人種だった。その不真面目さが身だしなみに現れているようで嫌悪感しか湧いてこない。特に髪型なんてニワトリのトサカみたいにボサボサと逆立っていてセンスを疑う。耳に複数開いた穴にはもれなく銀色の輪っかがぶら下がっていて、親から貰った大切な体に穴を開ける神経は理解し難い。
「君、東高の子だべ? 俺らこれからカラオケ行くんだけど一緒に行かねぇ? こっち三人いっから君も友達二人呼んでさぁ」
そう喋るのが格好いいとでも思っているのか、ガムでも噛んでいるみたいに歪めた口をくちゃくちゃと開く。
一人で下校していたところに急に声をかけられて、しかもそれがこんな冗談みたいな人たちで、私は面食らっていた。その様子を自身のガラの悪さを怖がっていると勘違いした様子で――しかもガラが悪いと思われることを誇らしいことと思っている様子で――三人組の、さっきとは別の一人が上から目線で付け加えた。
「来たくないなら友達二人じゃなくて三人呼んでよ。したら君、来なくていいからよ。俺らももっと色っぽい子の方がいいし」
私は、失礼な物言いを笑いながらやってのける非常識で幼稚な行いに、もはや怒りではなく彼らの両親への同情を感じていた。両親のためにも彼らに痛い目を見せて改心させたいところだが、
「友達はいないので、ごめんなさい」
『あなたたちに紹介するような』と頭につけるのが正しい意味だったのだが、幼稚な彼らは行間を読むことなんてしないだろう。とにかく私はそれだけ言って立ち去ろうとした。
「ちょい待てって。友達いねぇなら俺らと友達になろうぜ。色々教えてやるぜ?」
下品な笑みを浮かべながら言う『色々』とは例えばどんなものなのか、想像したくもなかった。早くこの場を立ち去りたい。
「用事があるので」
私は構わず彼らの横を通り過ぎようと歩き出した。しかし三人組の一人に肩を強く捕まれ、私の歩みは
「おい、誰が帰っていいって言った?」
自分の身に降りかかる恐怖がいよいよ現実味を帯び始めた時、すぐそこにある曲がり角から大きな人影が現れた。
それは突然だった。角を曲がって現れた人影は、私の目の前の三人組を一瞬で蹴散らした。不意打ちを喰らった三人は攻撃の主を威勢良く睨みつけたが、その姿を確認した瞬間表情が恐怖に染まった。
「お前……悪魔ッ!!」
無残に地面に倒され、体を起こしかけたままの体勢の三人は素早い動きでその身を翻し、情けない声と共に全力で逃げ出した。
人影の方を確認すると、その正体は私と同じ
野蛮な雰囲気に包まれ、決して女性受けしやすい外見ではなかったが、私はピンチを救ってくれた彼にときめきを覚え――早い話が一目惚れをしていた。
「おい」
熊のような彼が私を睨んでいる。
「あ……助けて頂いてありがとうございます!」
私は慌てて頭を下げた。相手に見とれてお礼を忘れてしまっていた。
「邪魔だ、どけ! てめぇも蹴り飛ばされてぇのか」
私を守ってくれたのだと思っていたが、その彼の口からは乱暴な言葉が飛び出した。優しい言葉を期待していた訳ではないが、まさかここまで敵視されるとは思っていなかったので、私は驚いてその場を動けなかった。そんな私を尻目に彼は舌打ちをして去って行った。
――何あれ、最低!
彼は私を助けてくれたわけではなかった。ただ邪魔だという理由だけであの三人組に手をあげたのだ。結果的に私は助けられたが、その過程の部分は人として間違っている。
彼に対する怒りで頭から煙が出そうになりながらも、一目惚れの胸の高鳴りは余韻を楽しむように私の体中に響いていた。
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