夢喰いケムプフェン! 私は神様の駒になった

Jami

 ふわふわとした感覚。それなのにしっかりと地面を蹴って飛び出すと風を切って進む身体。


「スイ! あれがここのボスですよ!」


 いつものようにどこからか声がして、目の前を阻む黒い物体を蹴散らすと、人の倍以上ある大きな蛇がとぐろを巻き、牙をむき出しにして威嚇している。こいつを倒さない限りは先には進めない。


「分かってるよ! うえぇ……蛇こわ。ちょっと抑えないと噛まれそう……」


 手に持った薙刀なぎなたを握り直し、下から上へ空を切る。旋風が巻き起こり、大蛇の長い首に絡まり大蛇の動きが弱まった。


「おおー。だいぶ使い方慣れてきましたネ」

「…………」


 天の声には反応せず、私は一気に踏込み、薙刀の遠心力を使って大蛇を叩き切った。手ごたえは十分。大蛇の首が胴体から落ちる瞬間、大蛇は砂の粒子のように砕け散った。

 勝った。


「お見事!」


 天の声、ではなく、次の瞬間、長く艶やかな黒髪に、よく神社で見る巫女さんのような、簡単に言うと着物と袴姿の女性がそこに現れた。


「疲れた。あー疲れた。明日……今日だよ……英語の小テストあるのに!」


 私は先ほどまで大蛇がいたところに浮かび上がった緑色の石を手に取りながらその女性を睨んだ。女性はにこにこしている。ああ、この石、投げつけてやりたい。


「今度の勾玉まがたまは何使います~? あ、もうすぐのようですからまた今日の夜にでも……」

「今日もやるきかーーーい!!!!」



――――――



「…………ぁぁい! って……ええ?」


 ハッと目が覚めた。目の前には大蛇もいなければ巫女服の女性もいない。自室の天井がまだ日が明けず、ぼんやりと目に映るだけ。手にも何も持っていない。薙刀も勾玉も何もない。


「……ふぅ……」


 まあ、いつものことか。私はもう一度目を閉じた。願わくば、先ほどの続きがないように。

 しかし、それよりも先にスマートフォンが目覚ましを鳴らした。完全にノーマーク。不意のことにびっくりしつつスマートフォンを探し停止させる。静寂に残るは完全に目覚めた、私。


「これ、いつまで続くのかな……」


 私は孤独な溜息を吐く。


 先ほどまでのことはである。しかしそれは実体をもつ夢であり、目覚めた今、ここが私の住む本当の現実世界。

 何がどうしてそうなったのか。紛れもなくどちらも現実で、私はその夢の中であの女性、になったのだった。


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