漂流5日目

森は欝蒼(うっそう)と茂っていて、入るのをためらわせた。

どんな毒虫や野生生物が居るかわかったもんじゃない。

それでも砂浜をうろついてもどうにもならないので、こうして勇気を振り絞っている訳だ。

運良く流れ着いていた柵らしき鉄の棒を握りつつ。



特に襲われることもなく歩いていると、少しだけ開けた場所に出た。

そこで自分の目を疑ってしまった。

オレはツイてるのか、ツイてないのかよくわからない。

水や食料を探している最中に見つけてしまったのだ。

打ち捨てられた廃屋を。



入り口のドアは留め金付近の木が腐りかけていて、開閉に難があった。

中に入ると石畳が敷き詰められていた。

向かって左が台所で右が居住スペースという、2部屋に分かれているようだ。

中が妙に明るいのは気になり見上げてみて納得。

天井らしきものが一切なく青空が見えた。


それでもこの状況で壁があるだけ有り難かった。

初日で住居を確保できたのは大きい。

しかも海から離れていないのも高ポイントだ。



さて、この廃屋に使えそうなものはないかな?

うーん、戸棚らしきものの中は土埃しかないし、目ぼしい所には何もない。

リビングらしき部屋に家具の残骸があるけど、完全に風化していて使用に耐えられる状態じゃなかった。

庭に井戸のらしきものがあったけど、土砂で埋まってしまっていた。

さすがに一挙解決って訳にはいかないようだ。


それでも折角見つけた文明の残滓(ざんし)だ。

もう少し収穫が欲しいんだけど……それは欲張りすぎかな。

そう思っていると、かまどの近くに素晴らしいものが置いてあった。

今一番必要な着火装置!



最高だよ、先駆者さまありがとうございます!

この装置は火打石を使って火種を生み出して火を起こすものだ。

ライターなんかと違って風化の心配が無いのが嬉しい。


それにしても、前の休暇に博物館行ってきて良かったと思う。

何気なく読んだ解説文が大いに役立っているんだから。

生きて帰れたら感謝状でも送ることにしよう。



探索を進めることとする。

森の中は鳥や虫の鳴き声はするけれど、大型獣の気配は一切しなかった。

それほど大きな島じゃないから繁殖ができないんだろうか。

こちらの都合から言えば大変ありがたい。

トラみたいな肉食獣がいたら、この身は瞬く間に晩餐に早変わりしてしまうから。


家から少し離れた場所に、これまた素晴らしい物があった。

いや本当に、今日のオレはどうしたんだ?



バナナの木をめっけたぞぉーー!



しかも辺りは絶妙な高低差がついていて、手を伸ばせば苦もなくバナナに手が届く。

素晴らしい、ここは天国か!?

根こそぎバナナをゲット、ついでに木の葉もごっそりいただいた。

しばらく食事には困らないし、これだけ葉っぱがあれば屋根の代用品も作れる。



拠点に帰って収穫の確認をしよう。


まずは浜辺で拾った手持ち鍋に、フォーク、鉄の棒だ。

これらは錆びてはおらず割と新しいものだった。

ひょっとして例の船にあったものかもしれないな。


それから空の2Lペットボトル2本。

これは普通にゴミだろうな。

海に捨てるなんて言語道断だが、今は助かったので文句は言えない。

海水で綺麗にしたけど雑菌とか大丈夫かな。

できれば煮沸消毒してから使いたい所。


お次は最大の目玉、着火装置。

これがあればいつでも火が起こせる優れものだ。

火があるのと無いのとでは生活難度が圧倒的に違う。

先の住民の方、名前すら存じませんが感謝します!


そして最後にバナナと葉っぱ。

このバナナだけど、市販のものとだいぶ違った。

とにかく種がすんごい多い。

身がほとんどなくて、可食部が良くわからなくなる程だ。

中からは汁がこぼれて手がベタベタするし。

でも贅沢は言っていられないから、甘い味のする種をしゃぶるようにして食す。

今日明日はこれで凌ぐとしよう。


大ぶりなバナナの葉っぱも大活躍だ。

辺りに生えてた草の茎を使って間に合わせの屋根を作り、建物の上に被せてみた。

端っこまでカバーしきれてないけど今は気にしない。

追い追い住環境も整えればいいからね。



作業をしているとあっという間に時間が過ぎていった。

あんなに高かった太陽がもう沈みかけている。

灯りの用意ができないので、早いうちに寝ることにしよう。


辺りの土をどけて石畳の上に寝転んだ。

これは寝具に変わる何かが無いとダメだろうな。

余裕が出たら考えよう。



「ルカのやつ、どうしてるかな。嵐の中無事でいられたのかな……」


身の安全が確保されるなり、思い浮かぶのは海の友達のことばかり。

こういう手すき時間になると記憶が呼び起こされる。


『キュィィーー!』


今も鮮明に思い出されるルカの悲痛な声。

きっとオレを助けようとしてくれたんだろう。

無茶をして怪我をしてなきゃいいんだけど。

もう一度会って無事を確かめたいけど、そんな手段があるはずもない。


ルカ、もう会えないかもしれないけど……楽しかったよ。

どうか元気で、健やかに暮らしてくれ。


オレは身を屈めるようにして横になる。

寝付けたのは、それからしばらく経っての事だった。

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